長編

領主館へようこそ 57

 あんなに気になったのはなんでか。 ジョットは今しがたすれ違った制服姿のユンを思い出しつつ玄関を出た。 別に普通だった。 思い煩いながらも足は目的地に向かって。 そろそろ来る頃じゃないかと思っていたら大正解。 梢の隙間か…続きを読む

領主館へようこそ 56

 メイちゃんの気が済むまで相手をしていたら、屋敷の玄関前にリアが歩いていっている姿が見えた。「こんにちは~仕立て屋で~す」「リア!」 玄関まで走る。「あら、コーウィッヂ様、いらしたんですね」「できたってことでいい?」「試…続きを読む

領主館へようこそ 55

 ユン着任から2週間目にしてジョットは安堵しきっていた。 みどりちゃんの紹介も成功裏に終わるばかりか、ユンの提案で雨の日のみどりちゃんは各段に元気になった。「今後も気づいたことがあったらどんどん言ってね。 もう骨身にしみ…続きを読む

領主館へようこそ 54

「お、タイミングいい~!」 階下に着いたところでジーとユンの顔を交互に見る。 ユンはさほど気にしていないようだが、ジーはかなりしょげていた。「ジー。あとで話あるから。 じゃ、ユンさん、行こう」─────『字、読めないの忘…続きを読む

領主館へようこそ 52

 いない。 コビとシロヒゲがいない。 部屋のドアを開けた、普段はジーの根城になっている部屋の中にいたのはみどりちゃんだけだ。「みどりちゃん、コビとシロヒゲは?」 みどりちゃんはプルリと震え、ぴょこぴょことドアのほうへ。 …続きを読む

領主館へようこそ 51

「隣村の宿に一泊するだろうなと思ってたんだ。 それで、こっちから迎えに行くって話、宿のご主人にしてたはずだったんだけど、どうも連絡がうまくいってなかったんだね。 結果オーライで行き違いにならなくてよかったよ」「いえ、お心…続きを読む

領主館へようこそ 50

「ようこそエトワへ! はじめまして! 僕がエトワ領主のジョット・コーウィッヂ、42歳デェーッス☆」 畑道のど真ん中で決めポーズを取りながら、ぽかんとした赤毛の女性を前に、ジョット・コーウィッヂは思った。─────出オチに…続きを読む

領主館へようこそ 49

「様子見てきます」 お茶を出した後すぐにコーウィッヂが戻ってきたが、リアがまだだ。 ダイニングを出ると、玄関から入ってきたリアが見えた。「ごめん待たせちゃって」 ユンはリアが手に持っている棒のようなものが、見覚えのあるシ…続きを読む

領主館へようこそ 48

 ほんの数刻後、ユンは恐ろしいことに、いつものように夕食の支度をしていた。 鍋をかき混ぜながらジーがコーウィッヂに担がれて外に出ていく様を、ユンが頭を垂れて送ったのを思い出す。 自分よりも体格が大きい——倍くらいの体重か…続きを読む

領主館へようこそ 47

 声に出すことはできなかった。 喉の奥の奥まで完全にこわばっていた。 もうすぐこの世を去るジーから託されたその荷物の重さが怖くて堪らない。 ジーの遺言はユンの体にめり込んでしまいそうだった。 コーウィッヂ様のことは好きだ…続きを読む