宴会開始から五時間。 月と星は薄曇りのすき間から結界の中にあるこのベータ宅にも光を入れていたが、そんなもの目じゃないくらい、料理人たちの手元の明かりが煌びやか。 調理場の緑や紫の炎、小競り合いのオレンジの焔、黄色の煙。…続きを読む
長編
ドラッグストアへようこそ 52
「ドアを開けた時はリミッターが外れて軽く漏れた程度だ。その押さえが完全に取れて、叫んだり泣いたりすると一気に放出される。 放出した魔力はあまりにも密度が高い。一斉に放出された魔力は、並みの魔族だと体の中にある魔力を弾き飛…続きを読む
ドラッグストアへようこそ 51
耳だけは二つ折りにできた。 その時、フォニーの体に、自らが背を向けた家のほうから未だかつてない感覚が横切る。 風? いや、衝撃はない。 しかし何か絶対に全身を通っていって、代わりに何かが抜け出て行った。 今、フォニーは…続きを読む
ドラッグストアへようこそ 50
ロールモデルがない十八歳ベータは、思いのほか酒もイけているようだった。 上機嫌な父親——といってもベータ的にはなじみのない父親の顔だろうが——を横目に、親しく話してくれる兄姉——ベータ的にはそう思うしかないだろう——。…続きを読む
ドラッグストアへようこそ 49
指がちぎれるかと思ったのは一瞬。 パカリ、とフォニーの体とともに、魔界の蓋は裏返ってテーブルの下に転がった。 テーブルの下で仰向けになったフォニーの目の前を、テーブルの天板の裏側のがさついた面が覆う。 ゆっくりズリズリ…続きを読む
ドラッグストアへようこそ 48
ベータがぼーっとしたような顔をフォニーのほうに向けている。「そうだ。十八歳だ」 『十八歳』。キーワードがフォニーの頭の中でこだまする。じゅうはっさい…ジュウハッサイ…。「だから今日の酒宴であるぞ」 兄の言葉は冴えている…続きを読む
ドラッグストアへようこそ 47
参加者全員、胃の中でアルコールに火をともして燃やしているのか? そうでもないと説明がつかない速度で酒が消えている。 会話云々という感じではないまま、前菜が消え、スープが消え、サラダが消え、今はメインディッシュが並んで。…続きを読む
ドラッグストアへようこそ 46
父上、と言われた者の声がする。「久しぶりだな」 魔界ではざっくりしたシルエットの写し絵しか見たことがなかった魔王の声は、ベータの声を少し低く、しわがれさせたような響き。 もしかすると年を取ったらベータもこんな声になるの…続きを読む
ドラッグストアへようこそ 45
「そっちは? え!? まだ届いてない?」「道が」「マジか!! 酒足りねぇぞ!」「キッチンスペース設置完了です」「火は? 燃料」「こっち」 怒声のような指示が飛び交う中、裏庭周辺を中心に、当日の午前中から準備は進められた。…続きを読む
ドラッグストアへようこそ 44
黙って踵を返すこともなく帰宅し、そのまま寝ておきたら翌日の夕暮れ。 食卓にはここ数日何事もなかったかのように着席するベータ。黙って着席するフォニーもフォニーなのだろう。 これが日常ってこと? 不思議な居心地の良さ。もう…続きを読む