ユンはなおも背筋を伸ばして言い張る。「お待ちしておりますので!」 それは温かで、こわばったジョットの全身を解き放っていき。「…うん…わかっ…た」 ジョットは自分の大きな手を見た。—————待たれたこと、なかったな。 ジ…続きを読む
長編
領主館へようこそ 76
玄関のドアを開けて、荷物を下ろして。 ジーにつぶやくのは止めた。「そのままでいいですから、少し待っていてください」 三人を制したその時、ダイニングから暖かな光。「ユン…さん?」 いつもの昼間と同じように、ランタンを両手…続きを読む
領主館へようこそ 75
静かになる。 木陰であっても大粒の雨水がぼつりぼつりと当たっていく。「皆さんにお願いがあります」 未だ魔物を見据えていたキシアスの肩をポンと軽く叩く。 顔が濡れていた。雨かどうかはわからない。「他言無用でお願いします」…続きを読む
領主館へようこそ 74
「先生は動力や仕組みの一部として魔力を用いて、その力の理を思うままに動かす装置のようなものを作り、魔力を媒体にして力の理をうまく発揮できるようにできないか…そんな施術を生き物に施すことができれば、誰もが魔法を使うのと同じ…続きを読む
領主館へようこそ 73
ジョットは足元にある長めの木の枝を1本だけ手に取って弄ぶ。 そのまま満を持して森の中の小さく広場のようになったキシアス達がいる場所——魔物と遭遇した場所——に歩みを進めた。 グシャッグシャッとわざとらしく開けたその場所…続きを読む
領主館へようこそ 72
—————『魔物が出たって』 デューイからの報告をジーに伝えられてすぐジョットは書斎を出た。 負傷して帰ってきた三人を見て、救急用具を取りに行くユンを見送るや、「ジー! ちょっと来て!」—————『つぶやきゃすむのに』—…続きを読む
領主館へようこそ 71
「私にはそうは…」 ジェレミーはキシアスの疑念に対して冷静な様子。「俺もっす。 てか、キシアスさん、その…『先生』って人に執着しすぎっすよ。 毎回崖地が調査候補地にあると他の人から奪い取って自分の案件にするし。 今回も相…続きを読む
領主館へようこそ 70
「そしてやられた奴の血痕はその足跡から放射状に離れる形で残っていたらしい…」 ジョットはニンマリするジェレミーに調子を合わせて訝しむ顔を作った。「おかしいだろそれ。 仮にその足跡の主がその場所から切りつけたんなら…切った…続きを読む
領主館へようこそ 69
「正直になってしまうとね…今は豊穣祭のことのほうが気がかりというか」 ジョットは話題を変えたが、ここでキシアスは思ってもみない方向へ。「皆さんは行かれないんですか?」 行けるわけがないのは様子を見ていたらわかるだろうに。…続きを読む
領主館へようこそ 68
「特に戦争末期には小型も含めて本当にほぼ出なくなって。 今はまた大型も含めて幾分か戻っているようですけどね」 ジョットの身に覚えがある現象をつらつらと口に出すキシアス。「能力の高い魔法使いの方なんですね。 そんな大量討伐…続きを読む