長編

領主館へようこそ 36

 ユンの『大丈夫』には本当の本当に、どこにも何の根拠もなかった。 しかも困ったことにユンはコーウィッヂのことを心から信用できているわけでもなかった。 それでもユンは背筋を伸ばしてコーウィッヂに言い張った。「お待ちしており…続きを読む

領主館へようこそ 35

「ユン…さん?」 コーウィッヂは声を抑えていたものの、ユンの持つランタンに照らされてあからさまに驚いている。 一方のユンは自分のほうが冷静なことに驚いていた。「おかえりなさいませ」 ランタンを手に挨拶を交わし、「こちらへ…続きを読む

領主館へようこそ 34

 屋敷には小雨のしずかなささやきが響いている。 ユンは目を瞬いた。—————私がおかしいんだ。部屋に戻ろう。 ユンの足はその体を部屋に戻した。 ランタンをベッド脇のサイドテーブルに置いて。 そして制服に着替え、再びランタ…続きを読む

領主館へようこそ 33

「いってきます」 今朝のとは違う、殉教者のような不穏な後ろ姿を見送る。 空は今朝までとは打って変わって曇天になりつつあった。「雨になるかもしれない」「それじゃ魔除けは…」「流されて効果が短くなるかも」 ジーが持ってきた剣…続きを読む

領主館へようこそ 32

 普段では考えられない速度の馬車。 昔見た伝令の早馬に近く、まともに走っているのが奇跡なぐらい。 でも時刻は予定よりも小一時間遅れている。—————何かあった。 ユンが玄関のドアを開けると、3人とも小走りでこちらに掛けて…続きを読む

領主館へようこそ 31

 コーウィッヂはしれっとした顔で食事を取る手を止めないままだけれど、目だけはしっかりとジェレミーのほうを向いたままだ。「そしてやられた奴の血痕はその足跡から放射状に離れる形で残っていたらしい…」 怪談話をしているような口…続きを読む

領主館へようこそ 30

—————昨日、落ち着かなかったのは私だけ? そんなことはないと思いたい、と調査に向かう彼らを送り出した翌日の昼下がり。 祭りまであと何日だっけ? と思うも、今回あの来客があるから大変残念なことにユンは見に行くことすらで…続きを読む

領主館へようこそ 29

「では、以前はどのあたりにいらっしゃったので?」「カロネア地方です。生まれもカロネアでして。 あのあたりもここと似たような感じなものですから、ここに来た時から実家を思い出しましたよ」 当然ユンは聞いたこともないが、コーウ…続きを読む

領主館へようこそ 28

 予定の賓客は、ジーではなく臨時雇いの村の若い人が御者を務める——彼のズボンと背中の間の隠れたナイフホルダーはコーウィッヂが許可しているのを見た——馬車に揺られてやってきたらしい。「これはなかなか」「僕の代で建て替えしま…続きを読む

領主館へようこそ 27

「ほんとですよ?」 コーウィッヂはしどろもどろに何かつぶやきながら視線を彷徨わせ、それからユンの言葉のわりに表情に乏しいだろう顔を見た。 しばらくじっとそのまま、そして、「ああ、そっか、そうだよね」 ほっとしたような苦笑…続きを読む