カラス元帥とその妻 5

あ~あ。失敗失敗。手に持ってるお皿落としそう…。
「そんなに落ち込まなくても大丈夫ですよ。私も最初はそんなんでしたから」
「…ありがとう」
「それに残さず食べてくれたじゃないですか」
でも、不味かったのは事実。
七歳も年下のヤナに慰められる私。
「それに、次ですよ。次。これから美味しいのを作れるようになれば良いんですから。ね」
「そうね…」
ヤナが言ってることがその通りなのは分かる。
あのあとあの人が一言も言わなかったのも、いつもの事だし。
でも、今の私にあの沈黙はきつかったのよ。
さて、食器の片付けおしまい。あ、まだワイン残ってた。グラスに二杯ぐらいかしら。
…飲むか。久々に。
「ヤナはどう?」
「いえ。私は遠慮しておきます」
「そう」
台所で一人で晩酌。おつまみなし。
あれ? なんだかおかしいぞ。この状況。うわ。泣いちゃいそう。
なんでだろ。そっか。私疲れてるんだ。
だって、ここは木造住宅。石じゃない。それに、服もちょこっと違う。食べ物は…やっぱりちょこっと違う。周りの人はヤナぐらいかな。一緒なのは。
疲れた。
あら。もう空になったか。じゃあ、この辺で止めとこう。際限なくなりそうだから。
眠くなってきたな。
こんこんこん
木製の階段の音。慣れたと思ったけど、やっぱりダメ。
着替えて。ふぁ…ねむい。
なんだか即効で寝れそう。
ん…いしきなくなってきた…もーだめ…
ガチャ
ん? 旦那かな。あ、そうだそうだ。ベッドに入って来るこの感じ。
あれ? なんか抱きつかれてる?
背中あったかい。眠気促進する感じ。
「お休み」
そういえば、きょうはいってなかったっけ。いわなきゃ。
ちょっとだけ、からだのむきをかえてっ。よいしょっと。
「おやすみなさい、あなた」
これでよし…ねよう…

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ちゅんちゅん
んー…朝か。
気のせいかな。こころもち目の前が暗い気がする…んっと…この壁何?
あったかいし。って! 旦那じゃん! 旦那の胸板じゃん!
ってことは、頭の上らへんのは…やっぱり。旦那の頭。
ちょいと待った。じゃあ、今の私の状況は?
うあ。抱き枕状態。ん~。動きたくても動き出しにくいなぁ。だってこの人寝てるし。それに意外と抱かれ心地いいし。
あれ? 寝てていいのかしら? そっか。今日は仕事休みか。
あ、起きた。
「…おはよう」
「…おはよう」
すごいわね。起きて速攻で立ち上がれるなんて。私はだめ。しばらくごろごろしてないとだめなの。
でもそろそろ私も起き時かな。よいしょ。
って、ええええ!? 何で、服着てないの? 今の今まで気づかなかったし。
ちょっと、あなた。何か知ってるでしょ。ああ、もう。すぐ服着よう。
あれ。力入らない。っていうか、だるい。目の前のカラスさんを見る。
カラスさんはちょっと私を見て、すぐに目を逸らす。そして、ちょっと私の胸元を見る。
「…すまん」
何それ? 胸元に何かあるの?
あ…これは…いわゆるキスマークって奴でわ? しかも一つじゃないし。
ってことは、夕べ私がしっかり寝入ってから、したって事ですか?
何よそれ。私全然記憶にないんですけど。
「いいわよ…別に…」
するなら私が起きてるときにしてよ。ホントにもう!
あれれ。あたかも私がこの人としたいみたいじゃない。この言い方だと。