カラス元帥とその妻 4

 結婚式から十四日目。
 家事はもうドンと来いって感じになってきたわ。
 ヤナも、『アカエ様が手伝ってくれるので私はとっても楽です』って言ってくれた。
 ただし。
 まだ、一つ残っているの。それは。
 料理。そう。お料理よ。これだけは、まだ手をつけてないの。
 なんていうか…そう。勇気が出ないの。
 確かに、小さいころは厨房に遊びに行ったりしてたけど、作ろうと思ったことはなかったし、それにまさかこんなことになるとも思ってなかったしね。
 今日はもうおよそやること終わったし。う~ん、どうしよう。
 酷いもの作ったりしたら、料理って大惨事になるらしいから…。
 ん~…。でもこうやって廊下をうろうろしてたって、何も始まらないわよね。
 よし。やってみよう。ヤナはどこかしら。あ、いたいた。
「ヤナ。あの…ちょっと頼みたいことあるんだけど…」
「ふふ。そろそろだと思ってましたよ」
「え?」
「掃除洗濯ときたら、次はもうお料理じゃないですか」
 流石ね、ヤナ。伊達にメイドやってないわ。
「じゃあ、はい。これ。お掃除のときのは、洗いましょう」
 エプロンまで持ってきてくれるとは。そうよね。掃除で埃だらけになったやつそのまんまってのも、いかがなもの、だものね。
 ヤナにくっついて、台所へ。
「じゃあ、とりあえず最初は…」
 さて。やるぞっ。
 
 
 
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「ただいま」
「おかえりなさい」
 そうそう。冷静に冷静に。
 軍服を脱いで着替えたら、ご飯よね。ああ、もうだめ。緊張してきたかも。
 お皿お皿。お水お水。フォークと…ナイフと…えーっと…
 あっ、もう着替え終わっちゃった? 早いわよ~。
 なんか不思議そうな顔してるわね。そうね。私がこんなことしてたら不思議よね。
 いつもは呼ばれてから食卓につく感じだもの。なんで食事の前からうろうろしてるんだってことだよね。
 理由があるのよ理由が。
 おおっと、そうこうしてるうちに全員そろったわね。
 席に着いて。
 では、いつも通り。
「いただきます」
「「「「いただきます」」」」
 何かしらね。この変な習慣。グレイがいただきますを言った後、みんなが続くっていう。これだけは、未だに慣れないわ。
 さぁて。どれから食べるかな。自分が作ったのは…後にしよ。このリコレアの煮付け。これにしよ。
 あ~んっ。もぐもく。…でも、やっぱり気が気じゃないわ。旦那はどれから食べるのかしら。あ、あれか。ほっとした。
 って、え!? 次それいくの? うわあ。どうしよ。いきなり心臓バクバク。
 あっ…。どう? どうよ? どうなのよ?
「……これは…」
「ああ、それ、ですか。奥様が作ったんですよ」
 それ以上、ヤナは言わない。
 だって、この卵焼き。ちょっと焦げてて、ちょっと上手に巻けてないからぐしゃってなってるし、味は…まだ食べてないから分からないけど、塩味のはず。
 でも、そんな見た目に躊躇せずに口に含んでくれたのが、まず嬉しい!
「まずい」
 …がーん。
「焦げすぎてる。あと…塩辛い」
 そんなにはっきり言わないで。これでも頑張ったのよ。ちょっと一口。
「う゛…そうね」
 まさにその通りの味。まずっ!!
 そして、いつもの沈黙。あー…今日の沈黙は殊のほか重たいわ。