カラス元帥とその妻 6

 朝ご飯はあの人が部屋に持ってきてくれたけど、あの人その後一体何やってたのかしら。
 普通お休みって言ったら、やっぱりピクニックとか行くものじゃないかな、とか思って、実はちょっと期待してたのにな。
 もう昼過ぎだし、無理よね。ったく。
 そもそも期待しすぎだわ、私。だって、あの人だし。
 私? ああ。ちょっとだるかったから、そのままベッドで寝てたわ。二度寝ってやつ。
 さてと。下に行かないと、みんな心配するわよね。
 ギシシ…
 なんかさっきから上で変な音がするのよね。それで目がさめたんだけど。
 でも、この家二階建てだから、寝室の上って屋根しかないはず…。
「もうお昼だけどおはよ」
「おはようございます…」
 ヤナはなんだか笑いをこらえているようで。
「? どうしたの?」
「いえ、別に…」
 ヤナにもこの家の人たちの”曖昧病”が移ったのかしら。
「ヤ~ナ!」
 私はヤナの頬を軽くつねった。
「吐きなさいっ」
「わかりましたぁ~。わかりましたからぁ~」
 それでも、ヤナは笑っている。
「あの…その…アカエ様が起きてくるのが遅いから…その」
 一呼吸おいて、こう言った。
「アカエ様の手料理は効果絶大だったみたいだなぁ…なんて」
 顔を真っ赤にしながら、しつれいしましたぁ~と叫んで、ヤナは走っていった。
 そんなんじゃないのよ。
 あの人は、ただ単に女と寝たくなっただけで、別に手料理が嬉しかったんじゃないわ。
 なんだかむしゃくしゃしてきた。
 あ、マイケルだわ。
 いつもより服が汚いわね。
「おはよう。どうしたの? その服」
「え? ああ。屋根の修理です。しばらく前から、一部剥がれてたんですよ。旦那様も手伝ってくださっているので、ずいぶん早く終わりました」
 ああ。納得。それであんな変な音がしたのね。
「で、その”旦那様”は?」
 マイケルの向こうから、ひょこっと顔を出す。
 黄土色のズボンに、薄汚れたシャツ。
 そんな格好してると、何が本職だかさっぱり分からないわね。
「…大丈夫か?」
 ダメです、って言ってやろうかしら。
「ええ。もうお昼ですから、ご飯にしません?」
「そうだな」
 そうすると、いきなり私のほうに歩いてきてるんだけど。
 うわ、何、なに? 顔が近いわよっ…
 あっ…耳に息がっ…
「ちょっと着替えてくる」
 そのまますたすた二階に上がっていく旦那。
 …あ゛ぁ? 何じゃそりゃ。
 ちょこっと緊張したじゃないの。損したわ。汗臭かっただけじゃん。
「マイケル。何?」
 さっきからニヤニヤしちゃって。一体何が言いたいのかしら。
「…いやぁ…旦那様もやるなぁ、と…」
 え? ってことは、あれはわざと? そうなの?
 何のために? 一つしかないじゃない。
 じゃあ、私もちょっとは期待していいって事かしら。
「あ、もう終わったの?」
 ヤナ復活。マイケルとヤナは馬が合うらしく、ここに来てすぐに仲良しだった。
「うん。奥様がそろそろご飯にしようかって」
 屋根補修組の二人が着替えてくる間に、私はテーブルセッティングね。