眼帯魔法使いと塔の姫君 2

「五月蝿い」
入ってくるなり、男は言ったが、ミリーノはお構いなしだ。
「毒は入ってますか」
男はパンとスープを一口ずつ食べた。何事も起きない。
─────よし。安全。
ミリーノはスープを食べ始めた。ミリーノがスープを飲み込んだと同時に、男は無表情で言った。
「俺があらかじめ解毒剤を飲んでいるとは思わなかったのか?」
─────し、しまったぁ!
ミリーノはスープを飲み込んだことを後悔した。吐き出そうとするが、もう手遅れだ。
男は眉間にしわを寄せたあと、盛大にため息をついた。
「毒は入っていない。お前、飯の前にもっと聞くことがあるだろう普通」
チッチッチッチッ……ポーン!
ミリーノの中で、質問が閃くまで、たっぷり十秒はかかった。
「ここはどこですか」
「言えない」
「あなたはだれ?」
「言えない」
「そんなぁ! 今『飯の前にもっと聞くことがあるだろう』って言ったくせに~!」
男の口調を真似る。
「答えるとは言っていない」
まるで漫才のようにテンポ良く進んだ。
「とりあえず飯でも食っておけ」
振り出しに戻ってしまった。男はドアノブに手をかけ、部屋を出ようとしたとき、ふと振り返った。
「ちなみに大声を出してもこの家の中しか聞こえないから、助けを呼ぼうとするのは無駄だ」
食事を運んできた時と同様に、男が出て行った後はただ壁があるだけだった。
─────なによッ! ご飯ぐらい食べるわよ! 食べてやろうじゃないの!
パンとスープをものの五分で平らげ、ミリーノは考えを整理しにかかった。

一、家と言っていたからには他にも部屋がある
二、あの男は今のところ私を殺す気はないらしい
三、ドアのことといい、声のことといい、この家には魔法がかけられている
四、おそらく、この家はあの男の持ち物だ
五、おそらく、あの男は魔法使いだ

ミリーノが思いついたのはこれぐらいだった。一は我ながらいいところに気が付いたと思っているミリーノだが、四と五に関しては、完全に推論で、当てにならないもいいところだった。。
─────これから私どうなるんだろう…もしかして、昔読んだ本みたく…

~ミリーノの推測~
「ちょッ、まって! なにするの?」
「密室に男女が二人きり。やることは一つだろう」
「や、やぁ、ちょっ…ぁ…んっ…だめぇっ!」
「よいではないか。よいではないかぁ!」
「あ~れぇ~」
~推測・了~

「そ、そんなぁ…」
ミリーノの瞳に、じわりと涙がにじんだ。
─────だめよ! そんなマイナスなこと考えてるからいけないんだわ。
ミリーノは本でも読もうと思った。が、部屋は見ての通りベッドしかない。暇である。今日はどの本を読もうかと考えていたことを思い出し、ますます本が読みたくなったが、手元にはそんな者はない。何とかして時間をやり過ごそうと思うが、何も思いつかなかった。
─────暇。ひまひまひまヒマひまヒマ…
こうしてミリーノはマイナス思考の渦から脱した。しかしそれは新たな問題が出現した瞬間だった。
─────暇すぎるっ!