時刻は六時。
月明かりが入り込む廊下を経て、王宮の執務を行う地帯よりさらに奥。
そこに、国王の私室があった。
ケイトクはやきもきしていた。自分の現状は深刻だ。
今日は政務も早く切り上げた。
─────まだか…
今しがた約束の時刻に達したばかりなのに、もう待ちくたびれていた。
「よっ! 待ったか?」
ドアを開けて、ジルコーニが入ってくる。
小さなランプで手元を照らしているだけなので、ジルコーニの姿は暗い影にしか見えない。
「で、何なんだ? お前が部屋に呼んでまで話したいことって」
ジルコーニの目は笑っていなかった。事の重大さを察していたのだろう。
「早速本題に入る」
ケイトクはもう一つの大きなランプに火をともした。
「僕の体、見えるかい」
簡素なシャツとズボンのみを身につけたケイトクは、そのランプの光にしっかりと姿を現した。
「へえ…こりゃまた…」
おどけた口調のジルコーニ。というよりも、それ以外に反応の方法が無かったといったほうが正しいようだ。
昨日とは比べ物にならない。もう完全に女と言って差し支えない状態である。
少年のようなあどけない顔。ビスクドールの如く白い肌。金髪のショートカット。しかしそれはむしろ続く胸、腰、足の女らしさを強調する。男物の衣服など、何の意味ももたなかった。
人によっては、今のケイトクを目の当たりにした瞬間に理性が吹き飛ぶかもしれない。そのぐらい、魅力的な女となっていた。
「昨夜からなんだ。昨日は少し胸があるぐらいだった。妙だとは思ったんだけど…丸一日でこうなった」
「そりゃまた急なこったな」
相変わらずジルコーニは目を丸くしていた。
「で、下のほうはどうなんだ」
そう聞かれて、ケイトクは少し顔を赤らめる。
「ある。ただ…」
口篭もるケイトク。
「小さくなってる、と」
コクリと頷いた。親友で”男同士”と言えども、少々気が引けた。
「何か思い当たる節はあるのか」
「ない」
この場合、思い当たる節というのは恋愛のことだ。
誰か好きな人が出来ると、その人の性別に合わせて変化する。それが、この国の王族に現れる両性具有の特徴だった。
そして、女に変化するということは即ち、男に恋をしているということを現す。
そんな気色の悪いことが出来るはずもない。
ジルコーニは沈黙した。
「もうこうなったからには何らかの方法で公表するしかないと思ってるんだ。原因が分らないから、対策の打ちようが無い。もうちょっと手前で治まるかと思ってたんだけど、ここまで女性化が進行したら、隠しておくのは無理だろう」
ジルコーニはまだ黙ったままだった。ケイトクの不安は煽られた。
「訳が分からない」
こんな不安は初めてだった。
分からない恐怖。それも、この後の自分の人生に直結する、大問題だった。
そして、ようやくジルコーニが喋りだした。