「…と、いうわけです」
翌日の朝。ゼタは一気に話し終え、ほうっと息を吐いた。
「なんだか腑に落ちない、と思うのは僕だけかな」
ケイトクは素直に疑問を口にした。
「私が聞いた限りでは、あの御婦人は嘘をついてはいませんでしたよ」
ケイトクはうーんと唸った。
「結局、テレイアとオリーブがどこに行ったのか、あと、デミアンの異変の原因が掴めてないでしょ。僕としては不満だなぁ」
ケイトクは、ジルコーニの容疑が一部晴れたことを喜んでもいたが、頭の大半は疑念に占められていた。
「テレイアが国内潜伏中だろうというのは分かったじゃないですか」
ケイトクは閃いた。
「ねえ、それっておかしくない?」
「え?」
「だって、ウリエルさんは息子が国内にいるって知ってたんでしょ? でもその行き先は知らないって、変…だよ」
「あ」
「多分ウリエルさんは黙ってただけで、心当たりがあるんじゃないかな。だとしたら、たとえばその別荘以外に、バロッケリエール家としてよく行く場所ってことだよね」
「そうか。そこまで思い至らなかったな…。申し訳ありません、陛下」
「いや、いいよ。これでだいぶ絞れたんじゃないかな」
ケイトクはこの収穫に新たな発展を見た。
バロッケリエール家縁の場所を知っていそうで、すぐに呼んでこれる人物を、ケイトクは一人しか知らない。
「ここは…ジルかな」
ケイトクは心配した。現時点で、ジルコーニを信用してもいいのだろうか。少なくとも、一部の容疑は晴れたものの、少年兵との熱愛騒動の件に関しては、依然としてジルコーニも容疑者の一人なのだから。
──―――でも…僕はジルを信じよう。疑ってしまったからこそ。
「ゼタ、ジルを呼んでくれるかな」
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その日の昼過ぎ。
「珍しいな。お前が俺を呼び出すなんて」
ジルコーニは不思議そうな顔をしていた。
ケイトクはこのとき、自分の胸がときめかないことが不思議だったが、今はそれどころではないのだ。
「ジル。今日はバロッケリエール家のことでちょっと聞きたいことがあるんだ」
「お、ようやく俺が容疑者になったか。そろそろ気づくと思ったよ。俺が怪しいってコト」
ジルコーニ自身、自分が怪しい人物であると気づいていたようだ。
「そうじゃない。別荘以外でバロッケリエール家の人間がよく行く場所って、思い当たるかな。例えば親戚とか、宿とか…」
ジルコーニは、なあんだ取り調べじゃないのかぁ、と一言して続けた。
「俺んちはそこまで親交が深いわけじゃないからな。詳しいことはわからんよ」
「そうか…」
ケイトクは目を伏せた。
「あ、もしかしたら、ロコロ方面かも」
「って、ロコロ家ってこと?」
「ああ」
ジルコーニによると、バロッケリエール家とダヤン家の付き合いはもはや形式的になっているが、バロッケリエール家とロコロ家、ロコロ家とダヤン家の付き合いは、今でも残っているのだという。それもこれも、現ロコロ家当主の人柄ゆえである。
だから、ロコロ家の当主なら、何か知っているかもしれないし、もしかしたら、ロコロ家の屋敷か別荘にいるかもしれない、というのである。
「あのおっちゃん、人が良いから」
ジルコーニはしみじみと締めくくった。
──―――そういうことなら、善は急げだな。
「ゼタ、」
「分かりました。調べさせましょう」
ゼタはため息をつき、ケイトクはにっこりと微笑んだ。
ジルコーニは、椅子に座るケイトクを見下ろしている。
「お前、変わったな」
「え? ど、どこが?」
「国王っぽくなった。なんか…前みたいな”間抜け感”がなくなった感じかな」
ケイトクは、何だよそれ、と笑った。
「俺の役目はこれぐらいかな。失礼するわ。仕事あるし」
ジルコーニはどこかぎこちなく帰っていった。