男性化志望者とその友人 26

「うん。知っているよ」
「へ!?」
 ロコロ家での返答は、あまりに簡潔で、聞き込みに行った使者は拍子抜けしたという。
「だってさ」
 安楽椅子に腰掛けたまま、ロコロ家当主サロメットは言った。
「テレイアがきれーなおねーさん連れてきて、『二人でゆっくりしたいんだけど、どっか場所貸してくれませんか』って言ってきたから、『うん。それじゃあ、いい感じの小屋があるから、そこにしなよ』ってことで」
 サロメットは、そうかぁ、あの人はデミアンの愛人だったんだぁ、とニヤニヤしていたということだった。
 そしてその使者は、その足で小屋に向かった。
「すいませ~ん」
 突然ドアが開き。
「あ゛!?」
 いきなり、明るい茶色の髪、黒い瞳の男が、けんか腰で現れた。
「今取り込み中なんだけど」
「あの、ちょっとお伺いしたいことが…」
 これがいけなかった。
「だったら何? 今取り込み中だって言っただろ? 全く。僕が誰だか分かってないんじゃない? 帰って。っつーか、帰れ」
「で、ですが…」
 使者は、完全に押されてしまった。
「か・え・れ」
 バタン
 ドアは閉まった。
 
 
 
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──―――で、現在に至るわけだ。
 使いの者が追い返されたまさにそのドアの前に立ち、ゼタは途方にくれていた。
 またしても国王の護衛を休んで、調査に来ることになった今回。もしも収穫ゼロだったら。
 不安が脳裏をよぎる。
──―――ええい。当たって砕けろ!
 一歩、ドアに近づいた。
 しかし、ゼタのドアノブにかかった手は、そこで一時停止した。なぜならば、中からこのような声が聞こえたからだった。
「あっ…ちょっと…い、いけませんって…」
「ダメ。もう限界」
「や、あ…ぁ…だめ………まだ昼過ぎだしっ…」
「やだ」
──―――おいおい。
 ゼタは一時停止した手を迷わず始動させた。
「こんちわ~」
 鍵がかかっている。
「今取り込み中」
──―――返事はするのか…
 ゼタは呆れた。
「こっちも至急の用事なんですけどぉ」
 鍵は開かない。
「後にしろ! こっちも至急の用事だ」
 そもそもこういう状況で、ポンと返事をしてしまう時点で、潜伏できているとは言えない。やはり相手は”お坊ちゃん”なのだろう。
「鍵、開けてくれませんか?」
 返事がない。
──―――そっちがその気なら、こっちも実力行使すっか。
 ゼタはドアを思いっきり蹴り飛ばした。
 いい具合に古びていたらしく、ドアの蝶番が外れ、そのまま室内に倒れた。
 予想通り、金髪黒目の女性と茶髪黒目の男性が、同時にこちらを”見上げた”。
 そしてやはり予想通り、テレイアがオリーブの服を少しずり下ろし、首筋にキスをしながら、太ももをなでていた。
「じゃ、入らせてもらいますね」
 後ろ頭をばりかきながら、中に入る。
「なんだよ。いいとこだったのに」
 テレイアはオリーブから手を離した。
「はじめまして。王宮騎士団長のゼタ・コーウィッヂと申します」
 かなりトゲがある言い方をした。
──―――こいつ、結構嫌いだ。
 ゼタは途方にくれた。ドアの前でそうしたのよりも、より深く。