結婚式から二十五日。寝る前にバイオリン弾くのも習慣化してきた。それでも私のほうが先に寝るけどね。
旦那は仕事。私はお昼ご飯も食べ終わって、さて、何しよう。
寝室は片付けたし、客間も片付けたし。やることないわねぇ。
あ、いいこと思いついたぞ。
「マイケル、あのさあ…」
ごにょごにょと、マイケルに耳打ち。
「え? それはいけませんよ」
「どうして?」
「僕じゃなくて、グレイに頼んでください」
「ふうん…わかった」
何でグレイなのかしら。旦那の職場が見たいっていうだけなのに。
マイケルのほうが適任だと思うんだけどなぁ。馬に乗らないと行けないから。
「グ~レ~イっ」
「はいはい」
いつもの落ち着いた調子で、グレイは答える。
「旦那の職場に案内してくれないかしら。まだゆっくり見たことないから」
「ふむ。そういうことでしたら、私がご案内しましょう。馬は…」
「もちろん乗れるわよ」
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と言うわけで、やってきました旦那の職場。つまり王宮。
服は地味にしておいたけど、流石に普段着ってわけにもいかないから、それなりにドレスアップ。
アポなしでも大丈夫かしら?
「すみません」
グレイが門番と話す。待ち時間ゼロで、大きな正門の横にある通用門が開く。
すたすたと歩くグレイ。口数は少ない。あっちの国にいた私の執事とは完全に別の生き物って感じ。
だってあの執事、四六時喋ってたもの。主に仕事から抜け出した私に対する小言だったけど。
今どうしてるのかな。きっと相変わらずね。私の代わりに、弟に張り付いてるのかも。
「さて。ここからなら見えますよ。鍛錬場。ただ、元帥がいらっしゃるかどうかはちょっと…」
案内してくれたお役人さんの声は先細り。
「ええ。分かってるわ」
確かに旦那の仕事ぶりも見てみたいけど、暇つぶしのほうがメインだしね。
お、やってるやってる。私の国でもやってたなぁ、弟とその友達が。
ふうん。軍人だからって、いつも軍服ってわけじゃないのね。
そりゃそうか。私だっていつもドレスってわけじゃないもの。軍服、結構暑そうだし。
ん? あ、いた。手合わせ中かしら。よく見えないわね。
へえ。あの人筋肉質だから、 馬鹿でかい武器使うのかと思ったら、普通だわ。普通。普通の剣。
さて、見るわよ。どれどれ…ええっと…。
「あの…」
「何?」
ったく、今取り込み中よっ。
「国王陛下がお会いになりたいと…」
「…そう。分かったわ」
「こちらです」
話によると、私が王宮に来たら会えるようにしてくれ、というお達しが、結婚式直後に出ていたらしい。
まあ、そうでなくても私から寄るつもりではあったけど。
緊張はしないわ。だって、”あの”国王だもの。
私の見合いを断った、あの。
で・も。今は旦那を見物してたのよ。邪魔しないで欲しかったわ。
「陛下。アカエ様をお連れしました」
「入ってくれ」
見合いを断ったときと同じ声がした。
横でグレイが頷く。
「私は、ここで待っておりますので」
いざ、入室。