朝ご飯はあの人が部屋に持ってきてくれたけど、あの人その後一体何やってたのかしら。
普通お休みって言ったら、やっぱりピクニックとか行くものじゃないかな、とか思って、実はちょっと期待してたのにな。
もう昼過ぎだし、無理よね。ったく。
そもそも期待しすぎだわ、私。だって、あの人だし。
私? ああ。ちょっとだるかったから、そのままベッドで寝てたわ。二度寝ってやつ。
さてと。下に行かないと、みんな心配するわよね。
ギシシ…
なんかさっきから上で変な音がするのよね。それで目がさめたんだけど。
でも、この家二階建てだから、寝室の上って屋根しかないはず…。
「もうお昼だけどおはよ」
「おはようございます…」
ヤナはなんだか笑いをこらえているようで。
「? どうしたの?」
「いえ、別に…」
ヤナにもこの家の人たちの”曖昧病”が移ったのかしら。
「ヤ~ナ!」
私はヤナの頬を軽くつねった。
「吐きなさいっ」
「わかりましたぁ~。わかりましたからぁ~」
それでも、ヤナは笑っている。
「あの…その…アカエ様が起きてくるのが遅いから…その」
一呼吸おいて、こう言った。
「アカエ様の手料理は効果絶大だったみたいだなぁ…なんて」
顔を真っ赤にしながら、しつれいしましたぁ~と叫んで、ヤナは走っていった。
そんなんじゃないのよ。
あの人は、ただ単に女と寝たくなっただけで、別に手料理が嬉しかったんじゃないわ。
なんだかむしゃくしゃしてきた。
あ、マイケルだわ。
いつもより服が汚いわね。
「おはよう。どうしたの? その服」
「え? ああ。屋根の修理です。しばらく前から、一部剥がれてたんですよ。旦那様も手伝ってくださっているので、ずいぶん早く終わりました」
ああ。納得。それであんな変な音がしたのね。
「で、その”旦那様”は?」
マイケルの向こうから、ひょこっと顔を出す。
黄土色のズボンに、薄汚れたシャツ。
そんな格好してると、何が本職だかさっぱり分からないわね。
「…大丈夫か?」
ダメです、って言ってやろうかしら。
「ええ。もうお昼ですから、ご飯にしません?」
「そうだな」
そうすると、いきなり私のほうに歩いてきてるんだけど。
うわ、何、なに? 顔が近いわよっ…
あっ…耳に息がっ…
「ちょっと着替えてくる」
そのまますたすた二階に上がっていく旦那。
…あ゛ぁ? 何じゃそりゃ。
ちょこっと緊張したじゃないの。損したわ。汗臭かっただけじゃん。
「マイケル。何?」
さっきからニヤニヤしちゃって。一体何が言いたいのかしら。
「…いやぁ…旦那様もやるなぁ、と…」
え? ってことは、あれはわざと? そうなの?
何のために? 一つしかないじゃない。
じゃあ、私もちょっとは期待していいって事かしら。
「あ、もう終わったの?」
ヤナ復活。マイケルとヤナは馬が合うらしく、ここに来てすぐに仲良しだった。
「うん。奥様がそろそろご飯にしようかって」
屋根補修組の二人が着替えてくる間に、私はテーブルセッティングね。