カラス元帥とその妻 3

 結婚式から五日。
 私が真っ先に悟ったのはこれ。
「暇!」
 しまった。思わず独り言。
 だって、向こうにいたころは、それなりに付き合いだのなんだのあったのに、こっちにはあんまりそういう風習がないらしくって。
 国王とかその周辺の人も、滅多に人前に姿を現さないし。
 グレイの話によると、年に一回だけ、舞踏会やるらしいけど、それもあと一ヶ月は先の話。
 どうしようか。この暇を。
 本読む? 図書館遠い。却下。前は王宮内にあったのに。
 絵でも描いてみる? 道具ない。却下。前は弟が持ってたのに。
 仕事? それがないから困ってるんじゃない。私、もうお姫様じゃないのよ。
 バイオリンでも弾くか? …気乗りしないわ。却下。
 あ゛ー、もう…
 
 
 
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 結婚式から十日。 
 私は何をしてるのかって?
 ヤナの手伝い。つまり、部屋の掃除。お洗濯。その他もろもろの家事。
 だって、あまりに暇だもの。
 王宮暮らしのころは、考えられなかったわ。
 だってみーんな誰かがやってくれてたし。っていうか、『私がやる』って言っても誰かがやったし。
 前々から思ってたのよね。貴族だからって、何もかも使用人任せは嫌だなって。頼み込んでも、ダメだって断られちゃったから、出来なかったの。
 だから、今こそ実行。
 まだまだヤナにダメ出しされるけど、ちょっとは慣れてきたわよ。
 ちなみに今は寝室の掃除。ヤナ曰く、『私が入り込んで良いものか、ちょっと躊躇しますから』だって。
 一応夫婦のプライベートルームってやつだから、言ってることは分かるでしょ?
 うわ。綿埃。結構溜まってるのね。
 シーツはさっき干しておいたし。あれもよし、これもよし。後は床か。よし。掃くぞ。
 やっぱり、ドレスよりもこっちの服のほうが断然動きやすいわよね。
 誤解してる人多いけど、王宮にいた時だって、毎日ドレスってわけじゃなかったのよ。
 あんなの毎日着てたら死んじゃうって。あのコルセットとか!
 でも、こっちに来てからのほうが、普段着の頻度は上がってる。ほとんどシャツにスカートだもん。あー、楽っ。
 あの人は嫌だったみたいたけど。
 あのね。五日前…あの人が仕事から帰って来た時、『どう?』って聞いてみたんだけど、また例によって微妙な返事でね。
『ああ。うん。まあ…いいんじゃないのか、別に』
 曖昧な返事を並べてみました、みたいな。
 似合うとか変だとか、はっきりしてくれ。ホント。
 グレイとマイケルに聞いても、やっぱり笑ってるだけだし。
 分からん! お前らの言葉は分からん!
 国王との見合いのとき、あんなにはっきり発言してたのは、幻だったかしら。
 そう。それによ。夜。そう。夜よ。問題は。
 いや、だって、曲がりなりにも新婚さんなんだしさ。
 その…やっぱり…ほら。あるじゃない。いろいろと。
 何がって? そこはもう…分かるでしょ! 照れるじゃないの。馬鹿。
 で、話戻すけど、あの人、ベッド入って来ても何にもしないで速攻寝ちゃうの。
 したのは最初の一晩だけよ。私だってそれなりに気にするわよ。
 厭味に聞こえるかもしれないけど、私、可愛くはないけど、美人ではあると思うの。あ~、でもダメなのかな。あの人の趣味じゃないのかも。
 でもね。普通は、一つ屋根の下に若い男と若い女が一緒にいるだけで、間違いが起こるものじゃない。
 何で夫婦間で何にも起こらないのかしら。
 服のことといい夜のことといい、あの人、私に興味ないのかしら。
 だったら何で国王との見合いのときにあんなこと言ったわけ!?
 あ、しまった。集めたごみ、掃いて散らしちゃった。また集めなきゃ。