結婚式から十四日目。
家事はもうドンと来いって感じになってきたわ。
ヤナも、『アカエ様が手伝ってくれるので私はとっても楽です』って言ってくれた。
ただし。
まだ、一つ残っているの。それは。
料理。そう。お料理よ。これだけは、まだ手をつけてないの。
なんていうか…そう。勇気が出ないの。
確かに、小さいころは厨房に遊びに行ったりしてたけど、作ろうと思ったことはなかったし、それにまさかこんなことになるとも思ってなかったしね。
今日はもうおよそやること終わったし。う~ん、どうしよう。
酷いもの作ったりしたら、料理って大惨事になるらしいから…。
ん~…。でもこうやって廊下をうろうろしてたって、何も始まらないわよね。
よし。やってみよう。ヤナはどこかしら。あ、いたいた。
「ヤナ。あの…ちょっと頼みたいことあるんだけど…」
「ふふ。そろそろだと思ってましたよ」
「え?」
「掃除洗濯ときたら、次はもうお料理じゃないですか」
流石ね、ヤナ。伊達にメイドやってないわ。
「じゃあ、はい。これ。お掃除のときのは、洗いましょう」
エプロンまで持ってきてくれるとは。そうよね。掃除で埃だらけになったやつそのまんまってのも、いかがなもの、だものね。
ヤナにくっついて、台所へ。
「じゃあ、とりあえず最初は…」
さて。やるぞっ。
********************************
「ただいま」
「おかえりなさい」
そうそう。冷静に冷静に。
軍服を脱いで着替えたら、ご飯よね。ああ、もうだめ。緊張してきたかも。
お皿お皿。お水お水。フォークと…ナイフと…えーっと…
あっ、もう着替え終わっちゃった? 早いわよ~。
なんか不思議そうな顔してるわね。そうね。私がこんなことしてたら不思議よね。
いつもは呼ばれてから食卓につく感じだもの。なんで食事の前からうろうろしてるんだってことだよね。
理由があるのよ理由が。
おおっと、そうこうしてるうちに全員そろったわね。
席に着いて。
では、いつも通り。
「いただきます」
「「「「いただきます」」」」
何かしらね。この変な習慣。グレイがいただきますを言った後、みんなが続くっていう。これだけは、未だに慣れないわ。
さぁて。どれから食べるかな。自分が作ったのは…後にしよ。このリコレアの煮付け。これにしよ。
あ~んっ。もぐもく。…でも、やっぱり気が気じゃないわ。旦那はどれから食べるのかしら。あ、あれか。ほっとした。
って、え!? 次それいくの? うわあ。どうしよ。いきなり心臓バクバク。
あっ…。どう? どうよ? どうなのよ?
「……これは…」
「ああ、それ、ですか。奥様が作ったんですよ」
それ以上、ヤナは言わない。
だって、この卵焼き。ちょっと焦げてて、ちょっと上手に巻けてないからぐしゃってなってるし、味は…まだ食べてないから分からないけど、塩味のはず。
でも、そんな見た目に躊躇せずに口に含んでくれたのが、まず嬉しい!
「まずい」
…がーん。
「焦げすぎてる。あと…塩辛い」
そんなにはっきり言わないで。これでも頑張ったのよ。ちょっと一口。
「う゛…そうね」
まさにその通りの味。まずっ!!
そして、いつもの沈黙。あー…今日の沈黙は殊のほか重たいわ。