カラス元帥とその妻 38

「ヤナ、マイケル、ただいまー」
 ようやく家に帰ってきたわよー。
 もう家に帰って来ちゃったの? って思う人いるかもだけど、お疲れ気味のカラスさんとお疲れ気味の私とお疲れ気味のグレイのことを考えて、今日は帰って休もうという算段なの。
 さて、これからまた一仕事なんだから。旅行中の服を洗濯! でもってお土産整理! 家用と旦那の職場用ね。ああ私の実家にも送ったほうがいいのかな。いや、そこまでしないでもいいか。
「あなた、着替えてお休みになったら?」
「ん…ああ…」
 のそのそと二階へ上がるカラスさんを見送る。
 これでよし。準備は整ったわ。
「ヤナ」
「はい」
「休み中はどうだったの?」
 一瞬ヤナが強張ったのが分かる。マイケルは向こうのほうでなんかやってるから聞こえてないはず。
「いえ。特に変わったこともなかったです」
「そ。それは残念」
「えっと…そうでしょうか…はは…」
 今度ははっきりとヤナにもその意図が伝わったみたい。いっしっし。やっぱりこういうチクチクいじめはいいわぁ~。
 うわ。これじゃ私、イジワルばあさんみたい。将来こんな風になって、子供の嫁とか婿とかをいびり倒すのかしら。いいえ。そんなことはないわよね。多分…。
 あら。もう片付け終わっちゃった。やっぱり二人でやると早いわ~。
 そうだ。私も服着替えようと思ってたんだっけ。忘れてた。着替えたら私もちょっと寝ようかな。ふあぁ…。
 カラスさん、もう寝ちゃったかしら。
 ドアをノックしてみても反応ナシ。部屋に入っても…動かない。寝たわね。
 着替えるのなんてあっという間。脱いだ服をたたんで、はい、できあがり。
 あとはカラスさんを起こさないようにするだけ。布団をそっとめくって…。
 と、その時、カラスさんがガバッとつかんで私を引き倒した。起きてたのか! 私としたことが、不覚!
「…ちょっと! まだお昼。それに、あなた疲れてるんじゃなかったんですの?」
「ああ。疲れてる」
 その割には動きが速かったみたいだけどね。
「これからしばらくはしないから」
 『しばらくは』!? 『しないから』!? で、それが何っ? という無言の抗議は今回は無意味で。
 私眠たいのに…。
 
 
 
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 目が覚めたのは夕方。起きたら晩御飯状態。だるさはあんまり取れてない。疲れを取るためにベッドで眠るつもりだったのに、予定狂った…。
 あ、いっけない。洗濯物取り込んだかしら。…それぐらい、ヤナがやってるわよね。
 カラスさんはもうとっくに起きていて、ベッドの隣はもぬけの殻。
 カラスさんの大きさにベッドがへこんでいるけど、ベッド内は人間二人分のあったかさよりはぬるい感じだから、もうずいぶん前にあの人は起きているんだわ。
 あれ? 片付けたはずの旅行カバンが出てきてる。しまわなくちゃ。んしょ…あれ? 重たい。何が入ってるのかしら。ちょっと開けてみよう。
 えっ! 旅支度完璧バージョン。しかも今回の旅行みたいな短期の準備じゃなくって、長期間どこかに出かけますって感じ。
 準備したのはカラスさんしかいないわよね。何よ、これ。家出でもしようっていうの?
 聞いてないわよ! 当然か。家出するのに宣言していく奴なんていないわよね。置手紙はありだけど。
 ああ、服着なくちゃ。もう晩御飯のはずだもん。
 下に降りて…カラスさんはどこ? 今すぐ聞きたいことがあるんだけど。
「あ、アカエ様。夕食、すぐ作りますね」
「あの人見なかった?」
「え? 今外で馬の手入れをしているはずですが…」
「そう。分かったわ」
 まっすぐ歩いて一分足らず。
 いた。
「あなた!」
 カラスさんはくるりと振り返った。どうやらもう手入れはほぼ終了したらしい。あの人のことだから、夕食の時間には終るようにしておいたんだわ。
「あの旅支度は何?」