カラス元帥とその妻 37

 呂律が回ってないっていうより、精神レベルの幼児化。この図体でやられると、ちょっときつい。
 だって重たい…。
 端から見たらでかいライオンがじゃれ付いてるようにしか見えないわよ、これ。
 カラスさんは私の発言に答える気ゼロみたい。
「いなくなったりしないよな。な!」
 『な』と言いながら見上げた目がなんだか…これ、カラスさんが聞いたら怒るわよね。でも言わせて貰うわ。
 可愛かった。いつもの仏頂面とそんなに変わりない表情だったのだけれど、確かに可愛かった。
 思わず頭なでなでしちゃったぐらい。
 そっかー、この人年下だったっけ、とか思いつつ。
 そしたら満足したみたいで、そのまま腕を放して、ベッドに上がってきた。そして、私をぐいっと押し倒して。
「だれにもやらないんだからな」
 誰に向かって宣言してるの?
 相変わらず彼の顔は私の胸の辺りにあって、彼は痛いぐらいに私を抱きしめている。
 いつもだとこのあと押し倒しにかかってきたりするんだけど、今日は違う。
 キスもしないし、第一その体制から動かない。よって私も動けない…。
 その夜は、そのまま私が彼を抱きかかえるような状態で、彼が先に眠ってしまった。
 ん~、重たい。重たい上にちょっと苦しい。
 明日が不安でたまらないわ。この人が二日酔いになってたら、どうやって家に帰ればいいのかしら?
 この人をここに放置して、グレイと先に帰っちゃうか?
 
 
 
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「ん…」
 私が起きたとき、既にカラスさんは身支度が済んでいた。
 あれ? 私寝過ごしたのかしら。そんなことないわよね。
 でもあんな『重たいなー』と思いながらもしっかり快眠できた私って、やっぱり図太いのかしら。
「おはようございます。…あなた、大丈夫?」
 夕べあんなだったんだもの。心配だわ。私じゃなくたってアレを見たら心配にもなるって。
 カラスさんは振り返った。
「…やっぱり」
 何が?
「すまん。覚えてないんだ。俺は昨日風呂には入ったのか? 寝巻きで寝てたから、多分入ったんだろうな」
「ええ。入ってましたわ」
「そうか…」
 やってしまった、って顔してる。
「…本当に覚えてないんですの?」
「いや、その…酒に弱いわけじゃないんだ。前からなんだが、飲むと記憶が少し飛ぶことがあって」
「二日酔いは? 頭痛かったりはしない?」
「それはない。久しぶりに飛ばしてしまったな。…最近だいぶそういうことは少なくなって、五、六杯はいけるようになっていたから……油断した」
 でも昨日は三杯しか飲んでないわよね。
 カラスさんは恐る恐る尋ねてきた。
「アカエ…俺は…何かアカエの気分が悪くなるようなことはしていなかったか?」
「ええ。何にも。だからそんなに気にしないでくださいな」
 面白いことはしてくれたけどね。クスッ。
「そうか…じゃあ良かった。本当に…」
 心からほっとしてるみたい。私の目が覚めるまで、気が気じゃなかっただろうな。
「ちょっと長旅で疲れてたから、いつもより回ったんでしょう。早めに帰りましょ」
「…そうだな。すまん」
「いいわよ、別に」
 いいもの見れたからね。
 まだ一つ腑に落ちないところはあるけど。
 カラスさんはやっぱりお酒が好きなわけじゃないみたい。だったら、家に常備されているあの高級ワインは一体?
 今日は私のためだったとして、あれ、何?
 結婚してから一月半以上経っているって言うのに、まだまだ謎は深まるばかりだわ。