おはよ~! 一晩じっくり寝たら、思った以上にスッキリした!
夕べはカラスさんも私も温泉疲れしてたみたいで、すぐ寝ちゃったの。
でも旅行ももう三日目か。早いなあ…。
「アカエ、行くぞ」
どこに、って話だよ、まったく。と思いながらも、あえて行き先を聞かない楽しみを味わってみようなどと思い、事実味わっていたりもする。
カラスさんってこういうの得意分野なのかしら。
まあでもあの仏頂面から何か読み取れっていうのがかなり難易度高いんだから、得意もへったくれもないか。
で、馬に揺られること二時間。
辺り一面野原だったさっきまでの風景と打って変わって、辺り一面に何か見える。何か…そう、果物っぽい。
あ! 葡萄畑だ! おいしそ~ね。実は…まだついてないわね。残念。
またリゾート地なのかと思ったら、そうではないみたい。あれ? あの蔵。何かしら。何かで見たような…。そう、確かあれは…。
そうだ。そう、あれよあれ! 酒蔵! そういうことか。ここ、ワインの産地なんだ。
カラスさん、やるぅー。
ということはということは! もしかしてワイン飲み放題な感じ?
でへへへへ。
********************************
はしょっちゃって悪いんだけど、もう夜です。
いやー、あっという間だったわ。ここまでの時間が。もうそれはそれはそれは筆舌に尽くしがたいわね。
だって、蔵の中を見学させてもらって、さらに味見まで!!
どうやってあんなスバラシイ場所を見つけて来たのか気になって、カラスさんに聞いてみたら、何の事はなかったわ。
メアリの旦那さんの実家なんだって。ほっとしちゃった。メアリって、結婚してんじゃん。
って、ちーがーうーっ!
カラスさん曰く、私がお酒好きだから、前にメアリに美味い酒を知らないかって聞いた時、旦那の実家が…なーんて話になったんだそう。
しかも、あの超絶美味なワイン、地酒だから、都には出回ってないらしい。残念。でも、家で飲んでるやつも負けてないわよ。
で、今どこにいるかというと、すぐ近くの民宿です。お料理も美味しいし、お酒はもちろんあのワイン。すばらしいわ。
でも、一個気になることが。
それは、カラスさんがいつものごとくあんまりワインに口つけてないこと。
折角美味しいものが楽しめるんだから、飲めばいいのに、何故? だって、あんな高級ワインを自宅に用意しておくぐらいなんだしさ。
…よし。試しに勧めてみるか。
「あなた。ワインとっても美味しいわよ。もっとお上がりにならないの?」
「…いや、そろそろいい」
「そんな。ねえ、女将さん」
偶々そこにいた女将に話を振ると、ビミョーな笑みをこぼして立ち去ってしまった。
そりゃそうよね。飲めない人に無理にお酒を勧めてたりしたらって、思うもんね。
でも私、負けない!
「旅行中ぐらい、遠慮なさらないで。いつも私ばっかりじゃ、こちらが気まずいというものです」
カラスさんはさらっと言った。
「それもそうだな」
ん? いやにあっさり引き下がったな。
一杯、二杯、三杯目を飲み終わった辺りで、丁度ご飯もおしまい。
なーんだ。結構飲めるんじゃんよ、カラスさん。それにそんなに酔ってるふうでもないし。
だってあの仏頂面が全く変わらないから…。ちょっとがっくり。酔ったら少しは喋るのかと思ったのに。
あーあ、これじゃいつもと変わんないわ。いつもよりも駄目かも。
双方ほろ酔い、カラスさんもちょっと眠そうだから、このまま速攻バタンキューかな。そうよね。
民宿のお風呂に入って、着替えて、さて。寝るか。
異変はベッドサイドに向かったときに起きた。
「まって」
ん? ああ。カラスさんか。
「なあに?」
振り返ると、カラスさんはいきなり跪いた。で、そのまま私に抱きついた。
おかげで私は少しふらついて、ベッドにぼすんと尻餅をつくように座り込む羽目に。
カラスさんは私に抱きついたまま。結果、カラスさんの顔は私の胸に埋まってる感じ。
普段のカラスさんなら絶対にありえない行動だと思う。と、いうことはもしかしてもしかすると。
「あかえはどっかいっちゃったりしないよな」
カラスさんの虚ろな目を見て確信した。でも、言わせて。
「あなた、酔ってる?」