カラス元帥とその妻 34

 で、只今カフェにいます。
 隣に旦那、向かいにメアリさんとグレイ。あ、しまった。メアリでいいって言われたっけ。う~ん、難しいな。敬語なのに呼び捨てするの、変な感じ。
「しっかしわざわざこんなとこまで来なくたって、ちょっと待てば王宮でも会えるでしょうに。馬鹿ね、あんた」
「お前に言われたくない」
 うわ、カラスさんが言い返してる。しかも即答で。
「あ、あの…」
「しかしアカエさん、すごいですね。政略結婚とはいえ、こいつと結婚するなんて」
 酷い言われよう。でも、あの口説き文句からは今のカラスさんが想像できなかったから、最初ちょっとショックだったのは事実。
「こんなに、こんなに、こ・ん・な・に、無口なくせに馬鹿でやきもち焼きで肝心のことは口に出さないうえに体力と外交手腕っていう職務能力だけが取柄の巨大カラスと付き合えるだけ尊敬します」
「だまれ」
「だってホントのことじゃない」
「お前も似たようなものだろう」
 似てない。全然似てない。と、思う反面なんだか似てるような気もする。
「あの宿屋に限らず毎回毎回国家予算を自分の尻拭いで食いつぶしている奴に言われたくはない。そもそもお前は国の予算をなんだと思って…」
「私の財布」
「ふざけるな」
「う・そ」
 チュっという音をさせて投げキスをしたメアリ。そしてソレから目をそむけるカラスさん。
 二人とも、私なんていないみたいにしてる。
 あなた、何しにここに来たの?
 私は、何?
 カラスさんはため息をついた。
「あの…ちょっとお手洗いに…」
 わざと照れくさそうにして、マナー違反だとわかっているけれど、”トイレ”にいくわ。
 ちょっと一人になりたい。
「…………」
「……………!」
 後ろのほうでまだ声が続いている。
 あれ? 何かな、この…むかむかする感じ。

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 トイレから出てきても相変らずこんな感じ。
 どっと疲れてきちゃった。ま、長旅だし、仕方ないところもあるんだけど。
「ファイ、そろそろあんた、一旦いなくなって」
「…少しだけなら」
 メアリはにんまりした。
 カラスさんがいなくなって、グレイ含め三人だけ。
「ちょっと聞きたいんですけど」
 いきなり切り出してきた。
「はぁ」
 気のない相槌を打ってしまった。でも、顔には出てないはず。
「彼の、どういうところが好きなんですか?」
 …どうやって返事すればいいのかしら。自分でも良く分からないのに。…質問で返してやるか。
「あなたは、あの人のどういうところが好きで、今までお付き合いなさってきたのですか?」
「え? そりゃあ、複雑そうに見えてすこぶる単純なところですよ。アカエさんはどうなんです? 結局」
 ぐさっ
 私の中でそういう音が聞こえたような気がした。
 どうなんだろう。わからない。
 わからないのよ。
「よく…わからないわ」
 それを聞いたメアリは、一瞬目を丸くして、そしてにっこりと笑みを返した。
「そうですか。良かった」
「え?」
「だって、嫌いじゃないんでしょう?」
 今度は私が目を丸くする番。
「ちょこっと心配してたんですよ。あの馬鹿、奇跡的な不器用さですから、アカエさんに嫌われてるんじゃないかなって」
 私、どんどん苦しくなってく。
 私よりメアリのほうがよっぽど、カジム・ファイ・クライングクロウのことを分かっているじゃないの。
「あいつのこと、よろしくお願いします」
 アルファさんに言われたときとは全然違う。
「ええ」
 そう返事はしたけれど、心の中では『無理です』と答えてしまった。