結婚式から五日。
私が真っ先に悟ったのはこれ。
「暇!」
しまった。思わず独り言。
だって、向こうにいたころは、それなりに付き合いだのなんだのあったのに、こっちにはあんまりそういう風習がないらしくって。
国王とかその周辺の人も、滅多に人前に姿を現さないし。
グレイの話によると、年に一回だけ、舞踏会やるらしいけど、それもあと一ヶ月は先の話。
どうしようか。この暇を。
本読む? 図書館遠い。却下。前は王宮内にあったのに。
絵でも描いてみる? 道具ない。却下。前は弟が持ってたのに。
仕事? それがないから困ってるんじゃない。私、もうお姫様じゃないのよ。
バイオリンでも弾くか? …気乗りしないわ。却下。
あ゛ー、もう…
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結婚式から十日。
私は何をしてるのかって?
ヤナの手伝い。つまり、部屋の掃除。お洗濯。その他もろもろの家事。
だって、あまりに暇だもの。
王宮暮らしのころは、考えられなかったわ。
だってみーんな誰かがやってくれてたし。っていうか、『私がやる』って言っても誰かがやったし。
前々から思ってたのよね。貴族だからって、何もかも使用人任せは嫌だなって。頼み込んでも、ダメだって断られちゃったから、出来なかったの。
だから、今こそ実行。
まだまだヤナにダメ出しされるけど、ちょっとは慣れてきたわよ。
ちなみに今は寝室の掃除。ヤナ曰く、『私が入り込んで良いものか、ちょっと躊躇しますから』だって。
一応夫婦のプライベートルームってやつだから、言ってることは分かるでしょ?
うわ。綿埃。結構溜まってるのね。
シーツはさっき干しておいたし。あれもよし、これもよし。後は床か。よし。掃くぞ。
やっぱり、ドレスよりもこっちの服のほうが断然動きやすいわよね。
誤解してる人多いけど、王宮にいた時だって、毎日ドレスってわけじゃなかったのよ。
あんなの毎日着てたら死んじゃうって。あのコルセットとか!
でも、こっちに来てからのほうが、普段着の頻度は上がってる。ほとんどシャツにスカートだもん。あー、楽っ。
あの人は嫌だったみたいたけど。
あのね。五日前…あの人が仕事から帰って来た時、『どう?』って聞いてみたんだけど、また例によって微妙な返事でね。
『ああ。うん。まあ…いいんじゃないのか、別に』
曖昧な返事を並べてみました、みたいな。
似合うとか変だとか、はっきりしてくれ。ホント。
グレイとマイケルに聞いても、やっぱり笑ってるだけだし。
分からん! お前らの言葉は分からん!
国王との見合いのとき、あんなにはっきり発言してたのは、幻だったかしら。
そう。それによ。夜。そう。夜よ。問題は。
いや、だって、曲がりなりにも新婚さんなんだしさ。
その…やっぱり…ほら。あるじゃない。いろいろと。
何がって? そこはもう…分かるでしょ! 照れるじゃないの。馬鹿。
で、話戻すけど、あの人、ベッド入って来ても何にもしないで速攻寝ちゃうの。
したのは最初の一晩だけよ。私だってそれなりに気にするわよ。
厭味に聞こえるかもしれないけど、私、可愛くはないけど、美人ではあると思うの。あ~、でもダメなのかな。あの人の趣味じゃないのかも。
でもね。普通は、一つ屋根の下に若い男と若い女が一緒にいるだけで、間違いが起こるものじゃない。
何で夫婦間で何にも起こらないのかしら。
服のことといい夜のことといい、あの人、私に興味ないのかしら。
だったら何で国王との見合いのときにあんなこと言ったわけ!?
あ、しまった。集めたごみ、掃いて散らしちゃった。また集めなきゃ。