カラス元帥とその妻 28

「行きに寄っていきたいところがある」
 カラスさんの出発後の第一声がこれ。
「ええ、かまいませんわよ。私はくっついているだけの身ですし」
 まさにその通り。だって行き先もプランもぜーんぶカラスさんに任せっきり。
 馬にまたがるカラスさん。一緒に乗っかる私。密着度高。おかげで私の背中は結構熱い。
 で、到着したのがここ。家から馬で一時間。家からは都より遠いけど郊外の町の中では都に最も近い町の、少し外れにあたる場所。
「何があるんですの?」
 いつもだったら『どうせ答えは返ってこないから』という理由で聞かないような質問も、旅行という文字に躍らされてぽんぽん私の口から飛び出してくる。
「昔馴染みが住んでいるというだけのことなんだが」
 馬を下りてその柵をくぐると、中には妙なサイズの建物が。
 家にしては大きいけど、屋敷にしては小さい。
 家にしても屋敷にしても、妙に無機質。なのに、屋敷というより家に近い有機的な雰囲気。
 ぼおっと見回していると、子供が二、三人走り出てきた。
「あ、院長せんせー! 変な人がいるーー!」
「きゃーーーーー」
「えー? どこぉ? だれぇ? なにぃ?」
 私のほうが聞きたい。
「ん? どないしたん?」
「せんせー」
 『せんせー』と呼ばれた人は、人のよさそうな細身の男で、年は旦那と同じくらいかしら。
「うおっ! ファイ、自分何しとるん? こないな辺鄙な所で。隣の別嬪さん…、ああ、そうか。奥さんか」
「しってるひとぉ?」
「ああ。恐い人やないから、安心せえ」
 私は一体どうすれば?
「とりあえず自己紹介せなな。アルファです。ここで孤児院やっとります。ファイ…ああ、違うか。カジムとは、孤児院…っと、この話、してもよかったんか?」
「かまわん」
「そか。孤児院にいたころからの仲でして。ま、だらだら付き合いが続いているというわけですわ」
 愛想よく喋るその姿は、『かまわん』しか言わなかった旦那と見事なコントラストをなした。
「私、アカエと申します」
「紹介には及びませんて。有名人ですもん」
 あら、さっきの子供たちはどこへ?
「ファイ、お前もちょっと喋らんと、この姫さんに逃げられるで」
 にやりと笑ったアルファにすら、表情を動かさない。
 ちょっとぐらい、反応して欲しいんだけど、私。
「折角来てもろうても、たいしたもん出せまへんが、どぞ」
「まあ、いいんですの?」
「もちろんですわ。レディーの来訪なんて滅多にあることじゃありまへん。どうです? これを機にこいつとはきっぱり縁を切って、こちらで」
「アルファ」
 かち割氷を作るようにがつんと一発、うちの旦那が合いの手をいれる。
 ちぇっ。折角『ふふ、それも面白いかもしれませんね』とか言ってみるつもりだったのに。
「あ~あ~、嫌やわぁ、嫉妬深い男って。おーい、お客様にお茶お入れしてー」
 大きな声で呼びかけると、わいのわいのと声が聞こえてきた。
「騒がしいですが、どうしょもないんですわ。じゃ、こっちへ」
 あら。いつも間にかカラスさんったら、私の肩に手を置いてる。
「行こう」
 カラスさんに押されるままに、中に入る。
 そこで、孤児院のいきさつを聞いた。
 カラスさんの行っていた孤児院は、先代国王の時につぶれ、このアルファが資金を集めて再建したのだという。
「そうそれで…」
 そんな話の途中で、カラスさんは子供たちを引き連れていなくなった。
 で、外で子供と遊んでいた。正直、びびった。
 子供と遊んでいても無表情なカラスさん。はは、みんな、恐くないの?
「ファイもいなくなったし、丁度ええわ。あいつ、きっと言ってないんだろうから、この場で奥さんにばらしてしまっておこ」
「何ですの?」