カラス元帥とその妻 27

 舞踏会から二週間。
 いつも通りだらだらした一日が終ろうとしている。
 だが、いつもと違うことが一つ。
 たいてい定時に帰ってくるカラスさんが、なんと三時間は遅れている。よって、私たちはご飯にありついていない。先に食べるのは悪いしね。
 それは現在進行形。
 どうしたのかしらん? 残業?
 でも舞踏会の後始末はもうとっくに終ったはずだし。
 あ、そうか。のみに行ってるのかな。だったら、そんなに怒れないわね。私もやっぱり時々行ってるから。
 そうそう。あの時飲みに行って以来、行くときはちゃんと一言言ってからにしているのよ。そうすると、ちょこっと特典がつくの。
 それは、カラスさんのお迎え。あの時みたいな早馬ではないけど、迎えにきてくれるの。おかげで時計は持っていってるけど、ほとんど見ないわね。定時にきてくれるから。
 帰りの会話がないのが玉に瑕だけど。
 それでも、こんな駄目主婦を黙って見ていてくれるだけで十分だし、迎えにきてくれるの、嬉しいし。
 お、帰ってきたかな? 違うか。
 実は最近編物って奴を始めてみたの。今花瓶しきを作ってるのだけど、結構面白いわね。
 昔だったらめんどくさくなって止めてたんだろうな。”暇”って凄いわ。結構慣れてきたから、今度はマフラーでも編んでみようかな。
 今度こそ、帰ってきたみたい。
「ただいま」
「お帰りなさい。遅かったのね」
 カラスさんは何も言わずに上着を脱いだ。
「飯は?」
「すぐ用意するわ」
 『させるわ』が正しいのかしら。急がなくっちゃ。私もおなかすいてるし。
 カラスさんは一旦二階に上がった。
 トントントン
 あれ? 足音がいつもと違う。なんだか軽い足取り。
 カラスさん…よね。何かあったのかしら。
 トントントン
 あ、降りてきた。
「あなた、何かいいことでもあって?」
「…え?」
 少し驚いたような顔をしたカラスさんは、ゆっくりと喋り出した。
「あ、ああ。うん。まあ。…まとまった休みを取ったから…」
「いつ?」
「…明日から」
 急すぎだし。
「何日ぐらい?」
「…四日」
 へぇ。ホントに珍しいこともあるもんだわ。この人がまとめて休みを取るなんて。それに、やっぱりこの人でも休みは嬉しいのね。
「ご飯できましたよ~」
 あ、ヤナが呼んでるわ。
「行きましょ」
「ん」
 そうかそうか。お休みかぁ。
 …って、何やるの? こんな急な休みなんて、やることないんじゃないの?
 
 
 
********************************
 
 
 
 ご飯も食べ終わり、風呂にも入り。
 でもどうしても気になる。寝室に入っても眠くない。
 バイオリンでも弾いてみるか? ん~、そんな気にもなれないなぁ。
 ガチャリ
「…まだ寝てなかったのか」
 カラスさんは緩慢な動作でベッドに近づいた。
 私もバイオリンを片付けて、ベッドに近づく。
 が、双方ベッドに入るだけ。
 いかん! このまま寝ちゃあいかん! 聞くことがあるのよ、私には。
「あなた、お休みはいいけど、何かあてはあるの?」
「…旅行しようかと。宿は飛び込みでも何とかなるだろう。今の時期はそんなに忙しくないはずだし」
 悪いけど、生まれてこの方宿に泊まったことなんてないんですよーだ。いつも別荘かよその王宮だったんですよーっ。
「明日の昼過ぎに家を出よう。俺と、お前と、グレイの三人。ヤナとマイケルは悪いが留守番だ」
 ”悪いが留守番”ね。そっか。そのほうがいいわよね。
「行き先は?」
「秘密、じゃあだめか?」
「いいわよ。じゃ、楽しみにしておくわ」
「ありがとう。お休み」
 啄ばむようなキスをして、カラスさんは速攻で寝てしまった。
 …楽しみだな♪