おはようっ! っていっても、ヤナのキスマーク問題は全く解決されないままだし。ピロートークもなしだったし。
時間も経ったせいか、だんだんあれは夢だったんじゃないかとまで思えてきちゃった。
カラスさんは今日もまた仕事。
まったく、仕事仕事って。たまには休めよ!
でもそれ言ったらあの人きっと、『昨日さんざん休ませて貰った』とか何とか言ってはねつけちゃうんだろうな~。
仕方ないか、とは思うんだけどね。だって、まだ昨日の片付け残ってるだろうし。舞踏会のせいで、いつもの仕事は溜まってるだろうし。軍の訓練はいつも通りありだし。
あの人はこんなに働いてるのに、私はいいのかしら、こんなんで。
よし、打開策になるかはわかんないけど、久しぶりに料理に挑戦してみよう。三度目の正直っていうし、今度は上手くいくわよ。きっと。
でも二度あることは三度あるっていうしなぁ…。
だめだめ。気合よ、気合っ!
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そろそろかな。そろそろかな。
「ただいま」
よし、きた。
「おかえりなさい」
ふっふっふっ。やってきたわね。待ってらっしゃい、今日は今までのとは違うんだから。
はっきり言って、自信あります。この牛肉の炒め煮。
でもでも、カラスさんの口に合うかしら。私としては『激ウマ!』って絶叫したいぐらいだけど、どうかしら。だめかしら。
ああ、不安になってきちゃった。
結局こうして心臓バクバクさせることになるのよね。情けない。
「いただきます」
「「「「いただきます」」」」
ひゃぁああ。
でも、平静を装う私。
カラスさんがフォークを取る。そして、食べる。
「…」
どう?
「…」
無言。
「…」
ちょ、ちょっと待ってよ。なんか一言ぐらい言おうよ。
どうやら私は思わずカラスさんをじいっと見ていたみたい。
カラスさんもじいっと私を見た。
「どうかしたのか?」
「い、いえ、別に」
おいおい。これじゃ、カラスさんの台詞パクッたみたいじゃん。
しかもカジム。あんたコメントなしかい。
ヤナは目を泳がせている。マイケルは少しにやっとしたのが分かる。グレイは美味しそうに食べている。
肝心のカラスさんは、いつも通りの無表情。
…だめだこりゃ。
カラスさんって、あんまり食べ物には興味なかったのかしら。でも、これまで私が作ったのには、割と細かく口出ししたわよね。たしか、『塩茹でして色止め』だとか、『焼きすぎ』だとか。それにワインも美味しいのを常備しているし。
まあ、何も言われないってことは悪くはないってことよね。きっと。
あ、逆の可能性もあるか。もう何も言葉にする気になれないほどマズいっていう可能性も。そうだったらどうしよう。
「ごちそうさま」
「ごちそうさま」
皆、ご飯を食べ終わってしまって。
私はヤナと一緒に食器を洗いながら、カラスさんのことを話す。
「ねえ、今日の、駄目だったかしら」
「そんなことないですよ。私、とっても美味しかったと思います」
ヤナの言葉には力がこもっていた。
これは本音ね。
「そう…よね」
サラダボウルを拭きながら、頭の中はどんどん上の空に。
あの人、何がしたいのかしら。