カラス元帥とその妻 23

「ただいまー」
 ようやく家に帰ってきたぞー!
 仕事に戻ったカラスさんを尻目に、グレイと共に帰宅。
 この疲れ方も心地良い。やっぱりああいうの好きだわ。
 さて、お風呂に入って…。
「おかえりなさいませ。早かったんですね」
 出迎えてくれたヤナは、なんだか慌て気味。
「お風呂沸いているかしら」
「申し訳ないです。今から沸かします」
 珍しい。ヤナが忘れてるなんて。
「じゃ、よろしく」
 グレイが大きく咳払いをした。理由は分からないけど。
 ま、とりあえずこの服着替えよ。疲れたから。
「グレイ、紅茶お願いできる?」
「はい。只今」
 部屋に戻って着替え始める。
 そういえば、この足首の飾り、一体なんだったのかしら。カラスさんは何も言ってなかったけど、何かあるのかしら。
 どんどん服を脱いで、着替える。脱いだ服をハンガーにかけて、一通り着替え終わって初めて気が付いた。
「あ」
 足首の飾りを手に取る。
 そうだ。この生地、この手触り。
 レースがひらひらついてるけど、レースじゃない部分、これ、カラスさんの軍服の生地だ。間違いないわ。
 だって今日あの人と踊ったとき、私、軍服をしっかり触ってたもの。踊るときは、向こうの片手はこっちの腰、こっちの片手は向こうの腰、が基本だから。
 え? じゃあ何? カラスさん、グレイに手を廻してこんなところで所有を主張していたの?
 案外あの人大胆なことするのね。違うか。むしろ小心者よね。だって足首だし。
 ああ、思い出して照れくさくなってきた。やめやめ。
 着替え終わって階段を下りると、紅茶が丁度飲みごろ。
 一口飲んで、カップを持ったまま窓のそばへ。
 今日は一人だけど、前にカラスさんと一緒に月を見た窓。
 あの時はめがねかけてたんだっけ。もうあれから結構経ってるのよね。
 未だに謎だらけなあの人だけど、今何してるのかな。
 今日は『名前で呼んでくれ』とか言ってたけど、私時たましかできなさそう。だって照れるから。
「アカエ様」
 ヤナが戻ってきた。お風呂沸いたみたい。
「ありがと」
 ん゛!?
 その時私は信じられないものを目撃した。
 ヤナの首筋。
 赤い、あざ。
 あんなところぶつけるわけないし。つまりそれは…キスマーク!
 誰? 今日家にいたのは、ヤナとマイケル。
 じゃあ、相手はマイケル? おかしいわ。だってマイケル、まだ子供じゃん。
 ヤナは私がそれを見つけたことに気づいていない。というよりも、そこに跡がついていること自体に気付いてない。
 そうか、グレイの咳払いの理由もこれだったのね。
 ああ、分からないわ。
 なんだか、そう、アレね。あれ。『女主人は見た!』って感じ。
 でも結構大問題かも。だって、主人の留守中に他の家の男を連れ込んでるかもしれないってことだもの。
 ヤナに限ってそんなことは、とは思うんだけど。そうじゃないとしたら相手はマイケル。う~ん、それはそれで凄い。
 ま、いいわ。もうちょっと様子を見てからね、これは。