カラス元帥とその妻 20

 ようやく。…ようやくよっ! 
 どれだけこの日を待ったことか、長かったわぁ。
 つまり、今日は舞踏会当日なのっ!
 今日は朝から服とかアクセサリーとかお化粧とかいろいろイロイロ大忙し。
 おかげで掃除はおさぼりしちゃいました。ごめんね。大目に見てね、今日ぐらいは。
 旦那は昨日から泊り込み体制。だからあっちに行かないと会えないの。家はマイケルとヤナに留守番頼んで、グレイが付き添い。マイケルかヤナでもいいのに、なぜかグレイが行きたがったのよ。あの欲のないグレイが珍しく。
 もうあとは出発するだけなんだけど、グレイが何か出してきてるのよね。何かしら。
「奥様。ぜひぜひこれを」
 あ、これ、足首につける飾りね。さっすがグレイ。私、そこまでは考えてなかったわ。
「でも、踊るとき邪魔じゃないかしら」
「大丈夫ですよ。布製ですから。それに小さいですし」
 じゃ、装着。
「行きましょ」
「では」
 馬車に乗り込む。
 まだまだ時間はかかるけど、久しぶりの宮廷なんだから。
 
 
 
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 馬車を降りると、人が集まっていた。
 が、私が降りると私の周囲が少し空いた。
 懐かしい感じ。この疎外感っていうか敬意っていうか、ビミョーな空気。
 普通の人は嫌なんだろうけど、私は平気。好き…でもないんだけどね。
 ホールはあっちね。あっちが警備員の詰所か。カラスさんはどっちにいるのかな。詰所かな。ホールかな。
 ホールに入ると、もう人でいっぱい。
 やっぱり私と同じく数少ない社交の機会を逃すまいとしているのね、みんな。
 まだ曲はかかってないから、始まってもいないっていうのに。
 あ、国王が出てきた。ナイスタイミングに到着できたみたいね。よかった。
 ざわめきが消える。
「本日はお集まりいただき…」
 始まった。どこの集まりでもお決まりのスピーチ。
「…やっぱり面倒なので止めます。それでは皆さんごゆっくりお楽しみください」
 終わるの早っ!!
 あの国王、ちょっと変わってるとは思ったけどここまでとは。まあ当然かもね。だってあのカラスさんを腹心にしてるんだから。
 でも一体どこにいるのかしら。今までは舞踏会で人を探したことなんてなかったから分からなかったけど、探しにくいのね。
 しかも軍服の人なんていっぱいいるから余計わかんない。
「一曲お願いします」
 はいはい。
「一曲ご相伴願います」
 はい只今。
「一曲よろしいですか」
 分かったってば。
 踊りながら辺りを見回す。
 結構大変。だって動いてるし。相手は自分より背が高いし。
 私だって背は高いほうなんだけど、やっぱり大の男にはかなわないわ。
 それに相手を変えるたびに曲調が早くなってくし。
 今何曲目? ちょっと疲れてきちゃった。前はこんなことなかったのに。ブランクってすごいのね。
「失礼」
 人を掻き分けて、ホールの端っこに移動。移動。
 よし、発見したぞ、ボーイを。
 これが目的の一つだったのよね。
「一杯いただける?」
「かしこまりました」
 ふっふっふっ。ワイン。カクテル。スパークリングワインもいいかも。でもやっぱワインかな。
 いっただっきまーす…
 あれ? おかしいな。王宮で出すんだから、すっごくすっごく質がいいのかと思いきや。
 家にあるやつとあんまり変わんないぞ。
 でもこれがまずいってわけではないの。美味しいんだけど。それってやっぱりうちのやつが超高級品だってことかしら。
 あれって料理用じゃなかったっけ。
 こっちは?
 あ、これに至ってはうちののほうが美味しい。
 カラスさんって意外と食通だったのね。