カラス元帥とその妻 19

「ご馳走様でした」
 いつもならお昼の後は寝室の掃除なんだけど、カラスさん寝てるもんね。あとあと。
 …いや、ちょっと覗いてみよう。
 ふっふっふっ。よし。こんなチャンスは滅多にないんだから、じっくり、じいーっくり寝顔見物してやろう。
 ガチャリ
 がっかり。寝てなかったか。
「少し体を動かしてからでないと、眠れないんじゃありません?」
 ベッドサイドに腰掛けたまま全然動かなかったカラスさんは、ゆっくりと立ち上がった。
「…それもそうだな」
 そうそう。ちょっと剣を振り回すとかさ。
 あらら。こっちに寄ってくる必要はないのでは?
 と、思っているうちに、カラスさんは私を抱きすくめる。
 ん? なんかお尻なでられてるんだけど。
「…ぁ…あなたっ…?」
 うわ、耳に唇が…っ! だめだめだめっ!
「まだお昼っ…」
 力いっぱい拒絶。だって昼ご飯食べたところだもん。だめだったらだめっ!
 カラスさんの唇が私の唇に触れそうになったのを、さっとかわす。
「んっ…」
「…分かった」
 そう。分かってくれた?
 カラスさんはゆっくりと手を離した。じっと私を見ている。
 そして、くるっと踵を返して、ドアに向かった。
「あなた」
 あれ、私、何で呼び戻してるんだろう。
 カラスさんはぴたりと歩みを止めたが、振り返りはしない。
 やだ。振り返って。こっち向いて。
 そして、振り返ったカラスさんを、今度は私がじっと見つめる。
 やば。なんだか私のほうがその気になってきちゃったかも。
 そういえば、私から何かしたことってなかったわよね。
 ちょっと頑張ってみようかな。なんて。
 ああ、やっぱり私、おかしいわ。何でかしら。
「ダメとは言ってないわ」
 ベッドサイドに腰を下ろす。
 ぽふっという音がする。
 今どんな顔してるのかしら、私。
 ブラウスの一番上のボタンに手をかける。
 は、恥ずかしい…。窓にはカーテンがかかってる。だけど所々から日光が入ってるから、部屋が明るい。いつもは月明かりもシャットアウトなのに。
 脂汗出てきたし…。
 カラスさんは無表情だった。
「無理しなくていいぞ」
 無理してないもん! してもいいって思ったんだもん!
 
 
 
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 ん……。
 ちょっと眠っちゃったのか。三時だし。
 カラスさんはまだ寝てます。私の隣で。
 私はあの後服を脱ぎませんでした。
 …自分では。
 あの『無理しなくていい』は、『無理してHしなくていい』って意味じゃなくて、『無理して自分で脱がなくても俺が…』ってことだったみたいで。
 あの…その…あはは。
 いや、でも、その、そんなに何度もってわけじゃなくっ!
 あ、いっけない。起こしちゃったかな。
「う…ん」
 セーフ。
 服着よう。まずベッド下りなきゃ。そおっとそおっと…。
 でもホントによく寝れてるみたい。
 …あ。よだれ垂らしてる。
 間抜けな寝姿見ちゃったわね。
 まあいいか。これからオシゴト大変だもんね。
 私は…隣の部屋の掃除でもしよ。だるいけど。だるいけど。…だるい。