カラス元帥とその妻 13

「ごちそうさまでした」
 食器を洗う私。ヤナは洗った食器を拭いている。
「ねえ、どうしてあの人、舞踏会の日にち、教えてくれなかったのかしら」
「さあ…私には見当もつきません」
 あ、いま嘘ついたわね。伊達に付き合い長くないのよ。
「で、どんな見当?」
 もう。そんなに顔赤くしないでよ。一体何考えてるの?
「…奥様を外に出したくなかったんじゃないですか?」
 そんなわけないじゃないの。カラスさんはそんなにサディストじゃないし、逆に私を愛してるわけでもない。
 ヤナって、ロマンチストよね。そんないい話は現実にはないのよ。
 …やっぱり、本人に聞くのが一番かな。
 
 
 
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 今は夜。晩酌も終わって(ダメじゃん私!)お風呂も上がった。
 珍しく、旦那と二人でダイニングにいる。っていうか、いつもだとここで寝に行くのに、わざと私が留まってるの。
 よし。仕掛けるか。
「あなた。どうして前もって言ってくださらなかったの?」
 どうでる?
「…日取りを伸ばしてもらおうと掛け合ってた」
「どうしてですの? かまいませんのに」
 相変らず、この人の表情筋はたいして鍛えられてない。さあ、吐け。
「…色々と忙しかったろう。国王の結婚式。俺たちの結婚式。続けて舞踏会」
「そうでもありませんことよ。国にいたころは、もっと頻繁に行事がありましたもの。ちょっと退屈してたぐらい」
 無表情。まだ裏があるわね。目線攻撃に切り替え。
「…そうか」
 無表情。もう一息。じいっと、目をそらさないこと。これ、基本ね。
「もう寝よう」
 向こうに目をそらされちゃった。立ち上がるカラスさん。
 ちっ、しぶといわね。もうばればれなんだから。いいかげん自白しないと、誘導尋問にかけるわよ。
「それって言い訳ですわよ。ご自分が後回しにしたかっただけじゃございませんの? 私をだしにするなんて、ひどいわ」
 動きが止まる。やっぱりね。そういうこと。
「私、結婚式の時から、楽しみにしてましたのよ。それと知っていれば、ゆっくり準備も出来ましたのに」
 さて、ひとしきり厭味も言ったから、先に寝よう。
「私、先に休ませていただきます。あなたは?」
「いや。もう少し…ここにいる」
「じゃあ、おやすみなさい」
 くるっと振り返って、階段に足をかける。
「アカエ」
 足を止める。
「何ですの?」
「お前は楽しみかもしれないが、俺は嫌いだ」
 あら、可愛い。ふてくされてる。
「素直に負けをお認めになって」
 ああ、笑っちゃうわ。人の感情って、顔が動かなくても分かるものなのね。
 カラスさんはすっと立ち上がって、棚のほうへ向かう。
 あ、ちょっと言い過ぎたかしら。でも可愛い。人をからかうのは面白いわ。
 振り返ったカラスさんは、こちらをむくれて睨み付ける。
 普通の人は、怖がるでしょうね、この状況。私は全然怖くないけど。むしろ面白いけど。
「一杯飲んでから、寝る」
「ふふ…量は控えめにね」
 この人って、そういえばお酒強いのかしら。
 あら、カラスさん。こっちに寄って来て。なあに? 一体。
「お休み」
 おでこにキスをして、カラスさんは台所に消えた。
 怒ってはいないみたいね。よかった。これで私も安心して寝れるわ。