カラス元帥とその妻 14

 しかしやっぱり暇だわ。
 舞踏会って言ったって、そんなに用意するものはないの。あと九日じゃあ。
 ドレスなんかは嫁入り道具として結構持ってきてるから、それを使えば良いし、小物だって、使いまわせば全然オッケー。
 旦那は軍服着用だから、楽なもんだし。
 ヤナとマイケルが留守番で、グレイが付き添い。ほら。準備完了。
 暇だわ。
 何もかも、この家の立地が悪いのよ。近くに小屋すらないのよ。実際、夜は真っ暗だし。
 お店だって、旦那曰く、馬を走らせないとないんだって。サイアク。
「ねえ、ヤナ。どうしてこの辺りって、こう何にもないのかしら」
「さあ。どうしてでしょう」
 ヤナはマイケルの服とグレイの服を繕っていた。
 ヤナは、暇だとか思わないのかしら。偉いわ。ヤナ。
「ねえ、マイケル」
「何?」
 ヤナに呼ばれてマイケルが走ってくる。なんだか姉弟みたい。
「この辺って、ホントにお店ないわよね」
「え? 何言ってるの? あるじゃん」
 ちょっと待った。
「どこにあるの?」
 話に割り込んで聞いちゃう私。
「え? あーっと…あそこに林が見えますよね」
 うん。見える見える。この窓からはっきり見える。
「あの向こう側。そうですね…歩いて二十分ぐらいですかね。上流階級御用達の隠れ家っぽい店ですよ。旦那様も、ごくまれに行って…」
 何いいぃい! ってことは、『ここらには店がない』は、大嘘ってこと!?
「で、何の店?」
「バーです」
 あのカラス! 帰ってきたらぶち殺すっ!
 あ、ちょっと今、マイケルがビクッてなった。
 確かに、私にも非があるわ。だって自分では何も調べなかったんだもの。
 だからって、旦那の横暴が許されるわけじゃない。
 昨日といい今日といい、ちょっと見損なってきた…。
 
 
 
********************************
 
 
 
「どういうことですの?」
「…それは…」
 あ~ら、言い訳がましく言いよどんじゃって。ちなみに、仕事から帰ってきて疲れてるから後でっていう言い訳は通用しなくってよ、あなた。
「理由がわからないから、聞いてるんです。何で教えてくださらなかったの?」
 ちょっと言いすぎかしら。でも、おかしいじゃない。私にそのことを教えたからって、あなたが不利益被ることなんて何にもないし。
「それはっ、色々と…事情が…」
 尻すぼみになってるじゃん。だめじゃん。
「どんな事情ですの?」
「あ…いや…」
「別に、私、あなたが愛人と一緒にいても、かまいませんのよ」
「違う」
 目を見開いて私を見るカラスさん。
「じゃあ、説明して」
 負けじとにらみ返す私。
「あなたがそういう人の所に行っていたって、かまいません。でも」
 息を吸い込む。だって今、私は一つ嘘をついたから。
「なぜ黙っていたのですか?」
 本当は、行って欲しくないに決まってる。
 でも、この人が私じゃ満足できないって言うのなら、仕方がないじゃない。
 悲しいけど。
 …悲しいけど。
「それは……」
 カラスさんの色黒の顔が、少しだけ赤くなっているのが分かる。
 この人でも、表情が出ることってあるのね。
 こんなときとか。
「…いいわ。ごめんなさい。問い詰めてしまって。私、先に休みますわ」
 昨日とは比べ物にならないくらい後味悪いけど、やっぱり最後は私の勝ちね。
 ちょっとは私のこと好きなのかしら、なぁんて、やっぱり幻想だったか。
 あーあ。疲れた。