カラス元帥とその妻 12

 結婚式から二十七日目。
 特に、異変なし。
 っていうか、ないとマズいのに、何にもなし。
 確かに、『アカエは馬鹿だ』とか何とか言って抱き寄せてきたわよ。
 あの時は私だって、よっしゃあこれで無言夫婦生活脱却か!? って思ったけどね。
 全然。カラスさん、やっぱり根が無口なのね。あの後はやっぱり無言。そして後朝もやっぱり無言。今日も、無言。
 烏って、『可愛い七つの子』があるから、鳴くのよね。
 …子供作ろうかしら。
 だめだめ。絶対ダメ! そんなことしたら、子供が可哀想過ぎる。
 だって、子供は生まれるんじゃない。”生まれさせられる”んだもの。
 だから今日もお掃除。プラス、お料理。晩御飯の支度をお手伝い。むしろ後半が今日のメイン。
 腕は…上がってないけど、頑張るわ。
 食べ物には人の心を開く力があると思うの。
 一昨日の一件で、カラスさんが私のこと嫌ってるんじゃないらしいっていうのだけは、ぼんやり分かったし。うわ。我ながら弱気だ。
 というわけで、旦那に二度目の挑戦状。
 
 
 
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「…ただいま」
「お、おかえりなさい」
 声が上擦る。前回以上に緊張する。
 あれ? なんかおかしいぞ。
 カラスさんがため息? どうしたのかしらん。
 今までこんなこと一度もなかったのに。
 ま、いっか。…でも落ち込んでるときに私の手料理で余計落ち込んだらどうしよう。
 んん…そのときはそのとき。当たって砕けろだわ。できれば修復可能な程度で収まって欲しいけど。
「いただきます」
「「「「いただきます」」」」
 今日はそのスープがジョーカーなの。どうかしら。味見したときは、一応人間の食物だったのよ。今はどうか知らないけど。
 おっ、ちょっと驚いているようね。へへん。どうよどうよ。結構いけてるんじゃないの? 
「…キャベツが煮えすぎてる。あと…この…」
「グリーンたまねぎ?」
「そう。塩茹でして、色止めしたほうがいい」
「味は?」
「濃い」
 そう…だめか。くそぅ。次回こうご期待、ってとこね。
 じゃ、今度はこっちの攻撃。
「今日は何かおありでしたの? ため息ばかりですけど」
 あ、しまった。ちょっと回復していた憂鬱顔が復活してしまった…。タブーだったのかしら。
 グレイとマイケルは、顔を見合わせて笑っている。グレイが口火を切った。
「今年の舞踏会の日取りは、いつでしたっけ?」
 うわっ、すごい落ち込みっぷり。
「…十日後」
 読めたぞ。舞踏会に出たくないんだ。そんなに踊り嫌いなのかしら。
 それとも付き合い嫌い? どっちもだわ。多分。
「今年は逃げられませんもんね」
 マイケルが笑いをこらえているのが分かる。
 大方例年は『警備がある』とか何とかで、早々に一人切り上げてたんでしょうけど、今年は流石に無理だわね。自分の嫁をお披露目しないといけないもの。
「あら、大変。私、服の用意をしないといけませんわね」
 カラスさんは恨めしそうに私を見やった。
 そんな顔しないで。私は結構…いや、相当期待してるんだから。
 ああいうの、大好き。いろんな人と喋れるもの。すばらしい行事よね。舞踏会って。ちょっとだけ疲れるけど。
 もっと早く日取りが分かっていれば、もっと色々準備したのに。どうして言ってくれなかったのかしら。
 変なカラスさん。後で文句つけてやろ。