怪獣と赤髪の少女 6

 ゼタを見つけてから二週間が過ぎた。気の滅入る梅雨もようやく終わったと見え、久方ぶりの青空が広がっていた。今日は月一回の店の定休日。ユリアンはそれを利用して、朝から庭先の草抜きに精を出していた。
 ゼタはというと、ここ二週間、いくらか売らずに取っておいた父の遺品の本を読んだり、先日のような隠し扉がないか探したりで日々過ごしていた。おかげでホコリが舞ってしまい、ただでさえボロ屋のこの家が、余計ボロい感じになっているので、今朝もゼタに掃除してくれと頼んだのだが、あまり進んでいないようだ。
─────チョットぐらいやってくれたっていいのに。
 ゼタは家の手伝いをほとんどしてくれなかった。結構がみがみ言っているのだが、返事はすれどもというやつで、店から帰ってくると大抵他事をやっていた。
 言い訳はこれだ。
「元の姿に戻れたらすぐにでも出てくつもりだ。もう少しで、なんか分かりそうなんだよ」
 こっちに確信がないのにそんなことを言われては困るのだが、『気遣いはいらない』と言ったのがこっちなだけに、あまり突っ込めなかった。
 軽くため息をついたところへ、後ろから声がした。
「「ゆーりーねーえーちゃーん」」
 ふりむくと、双子の少年が立っている。
「ロイ、ヒーリ、ひっさしぶりー」
 ロイとヒーリは町の領主の息子である。もう十歳だし、本当はこんな所に来てはいけないのだが、屋敷がこの近くにあり、時々遊びに来る。本人たち曰く、『家庭教師の先生の頭がガチガチすぎる』のだそうだ。
「中入っていいー?」
「ちょっとまって!」
 ユリアンが言い切る前に、ロイがそういって扉を開けようとした。
─────やばい、ゼタが見つかるかも
 もともとこの辺りは人通りはほとんどないため、だれかにゼタを見つけられるという心配はあまりしていなかった。だが、ロイとヒーリがいたのだ。しかも見つかったら、こんなに珍しい生き物だ。領主である二人の父親にも伝わるだろう。子供のたわごとで終わればいいのだが、うわさがうわさを呼んで一大事になることだってあり得る。ゼタがここにいる理由は、それを避けるためもあった。ユリアンの頭は真っ白になった。
「ん?なあに?ユリ姉」
扉を半開きにしてロイが振り向いた。ヒーリもユリアンの横で、
「ユリ姉?」
と首をかしげた。
「……な、中がまだ片付いてないのよ。もうチョットだけまってくれる?」
冷や汗が出ているのが、はっきりと自覚できた。
「んー、いいよおー」
「だけど、じゃあなんで草刈りしてたの?」
「ほ、ほら、お天気いいし。掃除は雨でも出来るでしょ」
「ふーん」
「なんか変なの!……あ、実は中になんか隠してたりして」
二人はにやり、と、子供らしからぬ笑いをもらした。
─────ひえー、なんでこう鋭いかなあ。
 子供というのは元来カンがいいものだが、この二人も例外ではなかった。今までも何度かギクリとさせられたことがある。
「ま、いっか。」
ロイがそういうと、ユリアンは脂汗をぬぐった。
 が、ヒーリの思いとロイの思いは違っていたらしい。ヒーリは家の中を覗き込んだ。