怪獣と赤髪の少女 5

「ほら、やっぱり」
 ゼタの台詞にユリアンは少しむっとした。しかし、妙なことも二回目となると、少し慣れが出てくるのだろうか。ため息をつきながらも蓋を開けると、長く大きな布の包みがあった。生き物ではなさそうだ。取り出そうとしても、あまりの重さにびくともしない。
 それならば、と、その場で布をはぎとる。中から姿をあらわしたのは、剣だった。それも、とてつもなく大きい。前にこの辺りに大型の魔物が出たときに、その討伐隊の何人かが持っていたのと同じくらいの大きさだろう。ユリアンはその時以来、そんな大きな剣を見たことがなかった。
 それに、ユリアンの住む辺りには、魔物はあまり姿を現さない。戦も三百年以上前から起きていない。つまり、剣の必要がないのだ。各家庭にあったとしても、護身用の小さいものだけ。装飾品ならまだ分かるのだが、目の前の剣はどう見ても実用品だ。しかも持ち手の部分の具合からして、かなり使い込んだ感じである。
─────なんでうちに?
 ユリアンは隣に目をやる。
「あいつら……」
そこには満面の笑みを浮かべるゼタがいた。
「何?それ」
「俺の剣。あいつら、売り飛ばさないで取っといてくれたんだ」
そういうと、刀身にふれ、へへっ、やっぱあいつらだよなっ、と笑いを漏らした。
 ますますゼタがゼタ・ゼルダであるかわからなくなった。確かにゼタ・ゼルダは大剣を操ったことになっている。だが。
─────自分を裏切った仲間にこんな反応するかしら。
 何しろ三百年も箱に閉じ込められ、姿も変えられているのだ。もっと違った反応をするのが普通だろう。
 もしかしたら、三百年ぶりに自分の知っているものを見つけてはしゃいでいるだけかもしれない。
「ねえ、他にもこういうのがあったりとかするのかなあ」
「可能性はかなり高いな。俺はこの家の構想聞いたことあるし」
目を丸くするユリアンをよそに、ゼタは嬉しそうに話し始めた。
「昔、話したことがあるんだ。なんか絶対見つけられたくないお宝を隠すんだったら、どうしたらいいだろうって。そんときに、崖に穴掘ってそんなかに隠したらどうかって言うのをだしたんだ。入り口のとこにはなんか建物でも建てればわかんないだろうって。でもそこで、ジョットが言った。『それじゃあバレバレだ。入り口と宝箱に魔法をかけて、条件がそろわないと開かないようにしよう。たとえば特定人物にしか開けられないとか、雨の日しか入れないとか。その上に魔力を隠す魔法をかければ、完璧じゃないか』って」
「それじゃあこの床下収納の説明になってないじゃない」
「それはチリカってやつが言い出したんだ。『お宝は分散させたほうがいいわ。一つ見つけられても、他のは見つからないのがいいんじゃない?例えば、一個だけ崖のとこに隠してさあ。あとのは、その手前の建物に隠しておくのよ。そのときに、崖のやつが見つからないと、他のも見つけられないようにしておけば、もし盗賊なんかが来たら、真っ先に手前の建物を探すでしょ?で、その後崖のやつが見つかっても、それ一つが宝だと思って引き上げるんじゃないかしら。』だそうだ。
 で、ベータって言うのが、『隠し場所は、私たちの顔が知れていない田舎の方がいいだろう。そうすれば、手前の建物に私たちのうち一人が定期的に見回りにいっても怪しまれないだろう。そうだ、建物は小屋か別荘がいい』って。これで完璧だ。」
─────こいつ、そこまで知ってて今まで黙ってたのか。
自分の家を小屋呼ばわりされたのもふくめ、ユリアンはむっとした。
「何で言わなかったのよ」
つい、口に出た。自分の口調がきつくなっているのに気づいた。
「だって、聞かれなかったし」
 喜々として答えるゼタを見て、ユリアンはがっくりとうなだれた。
「今度から、聞かれなくてもそういうことは言ってよね」
 これからの生活が思いやられる一日だった。