怪獣と赤髪の少女 4

ユリアンは家から少し離れたところにある町のパン屋で働いていた。
「おはようございます」
「『お早く』なんてないよ、ユリアン」
朝一番から、女将の声が飛んできた。
「いつもより五分遅いわね。今日の片付けはユリアンにやってもらおうじゃないか」
ここ四日ばかり、片付けはユリアンの仕事となっていた。まだほかの従業員の二人は来ていなかった。
「返事は?」
「はい」
「とっとと支度をおしよ」
慌てて支度をして、パンを作り始める。
─────またか、くそっ。
 ユリアンはここの女将によく思われていない。だが、やめるわけにはいかなかった。両親を亡くして、働き口を探したのだが、ユリアンを雇ってくれたのはここだけだった。その理由は、後で述べることになるだろう。いまは置いておいてほしい。とにかく、どんなに厳しかろうと、薄給だろうと、ここをやめたらユリアンに残るのは夜の街だけだ。そうなることだけは避けたかったのだ。
 それに、メリットもある。残ったパンを分けてもらえるのだ。女将があの調子なので、ユリアンに回ってくるのは腐るぎりぎり一歩手前のものばかりだったが、それでも貴重な食料源には違いなかった。このパンと、家の横にある家庭菜園で取れるわずかな野菜、そして、職場までの道のりにある木の実や、食べられそうな雑草ときのこが、ユリアンの食生活を支えていた。
 
 
 
*********************************
 
 
 
「ただいまあー」
 仕事を終えて帰宅したユリアンは、職場からもらってきたパンをテーブルの上におき、洗濯物を取り込み、木の実と、野菜を手に台所に立った。
「おい、ちょっといいか」
足元からゼタが姿をあらわした。
「なあ、あそこの床、開くんじゃないのか」
ゼタが指差しているのは、調味料が入っていた─────今は空になっているのだが─────床下収納だった。
「ああ、そこは調味料を……」
「その下だよ。もう一段開くようになってるんじゃないのか」
「なんでそんなの分かるのよ」
「海賊のカン」
胡散臭いことこの上ないが、ゼタを納得させるべく、ふたを開ける。
─────あれっ?
 昨日と同じパターンだ。見覚えのない鍵穴が端のほうにあった。
 まさか、と思いつつも、まだふさがりきっていない親指の傷口から血を染み出させ、鍵穴になすりつける。
 カチリ
 予感は的中したようだった。