怪獣と赤髪の少女 3

 一晩明けて、ユリアンに分かったことが一つだけあった。
─────ゼタの胃袋はおかしい。
ゼタはユリアンの両手の上に座れるくらいの大きさなのに、食べる量はユリアンの二倍はあった。最初の晩は、三百年ぶりだし、ものすごーーーくおなかが減ってるのかもしれないし、と、軽く思っていたが、今朝の食べっぷりをみて確信した。しかも、本人いわく、
「昔より食えなくなったなー」
である。
─────安請け合いするんじゃなかったかな。
「そういえば、おまえ、俺をどこで見つけたんだ?」
「ユリアンよ」
 そう訂正して、ユリアンは台所の窓を見やった。昨日の穴はもうなくなっていて、いつもの岩壁になっていた。いきさつを話すと、
「ああ、よくある魔法だな。ただ、チョット凝った細工がしてあるんだろう」
「どういうこと?」
「三百年ぐらい経ってから、いくつか条件がそろうと中に入れるように魔法かけたんだ。」
「そういえば、ゼタが入ってた箱に、変な模様の紙がついてたわね」
「…なあ、いっぺん俺が入ってた箱、見せてくれないか」
 実は昨日ゼタは、生活するにあたって家の中を見て回るので疲れてしまい、夕食を食べてからはすぐに寝てしまったのだ。
「ああ、こりゃまためんどくさいことしたもんだ」
箱を見るや否や、ゼタは感心したのかなんなのかよく分からないため息をもらす。
「多分ジョットの子孫の血で箱が開くようになってたんだろうな」
 なんという偶然。つまり、たまたまユリアンはそのジョットとか言う人物の子孫で、たまたま親指に傷を作り、たまたま血が出ていて、その親指で箱に触れたから、鍵が開いた、ということだったのだ。
 ゼタはそのまま箱の上の文章に目をやった。そして、唇をかみ締めた。
「………っ、バカヤロウ」
そのまま顔も見せずに、寝る、と一言呟いて、布団にもぐりこんでしまった。
「じゃあ、仕事いってくるからね」
 布団に向かって声をかけて、ユリアンは家を出た。町へと向かう途中、ユリアンは考えた。やはり、ゼタはあの”ゼタ・ゼルダ”なのだろうか。ゼタはあの箱をみて、魔法がかかっているといった。たいていの人は、魔法などそもそも見る機会がないし、それに気づくこと自体が特殊能力だ。でも海賊なら、逮捕のために王宮魔法士が呼び出されることもあっただろうし、物語の冒頭に『魔法を見抜いた』という一節があった覚えもある。
 ただ、ゼタを閉じ込めたのは、ゼタの仲間である。箱の上の文を読んだときのゼタの反応がひっかかるのだ。出かけるときは聞けそうになかったが、思い出したら仲間の話をしてもらおう。なにせ自分の先祖もその一人らしいのだから。
 そう思ったきり、ユリアンはそのことを記憶の片隅に追いやった。