怪獣と赤髪の少女 22

 からりと晴れ渡った翌日。ゼタはユリアンから詳しい話を聞いた。親を侮辱されて従業員を殴ってしまったこと。女将に見つかってクビになったこと。その挙句帰り道には暴漢である。ユリアンは一日経ってもすっかりふさぎこんでいた。
─────こいつがこんなじゃなあ。
ユリアンが落ち込むのも仕方ないと分かっているが、ゼタはいつあの話を言おうかといりいりしていた。ユリアンはというと、ひたすら庭の草抜きをしていた。時折空を見上げてため息を漏らしながら。
 そして、その日の夕食。ゼタはついに勇気を振り絞った。
「ユリアン、俺が都についてっちゃだめか?」
「え?」
「おまえ、俺がここに残ることになるって事に、気ぃ遣ってんだろ。俺としちゃあ、ついてったほうが好都合だ。昨日ので二回目、あと一回で完全復活だからな。ここにいるよか、都のほうが刺激が多いぶん、元に戻るきっかけも多いと思うし」
「でも……」
「この家はのことはロイとヒーリにでも言っておけばいいんじゃないのか? なんなら国王から二人の親に言ってもらえば、バシッと管理しといてくれるだろうぜ」
ユリアンはまだなにか不安そうな顔をしていた。そこでゼタは駄目押しした。
「いっそこれを機に都に移住しちまったらどうだ。仕事もあっちならいっぱいあるし、お前のことなんざ誰も知らねえ。俺はぬいぐるみかなんかのふりでもしておけば問題ねえだろ」
「でも、元に戻れるかもよくわかんないじゃないの。そんなんじゃ」
ゼタはようやくいつもの調子を取り戻しつつあるユリアンの話に割り込む。
「その辺は大丈夫だろう。前回元に戻ったのと、今回と、割と間隔が空いてねえだろ。多分次もそれぐらいの周期だろうと思うし、俺自身なんか……こう、『近づいてる』って感じがするんだ。こんなんじゃ、説得力ねえかな。とにかく、俺も一緒に行く。いいか」
ゼタの口調は徐々に断言するように変わっていった。ついに、ユリアンが折れた。その表情は、なんだか微笑とも取れるようなものだった。
「いいよ」
ゼタはにひひっと笑ってから、皿を片付け始めた。ユリアンはその後姿を見やった。
─────あたし、ゼタに心配かけたんだ。
 不思議なものである。これまでユリアンは、ゼタがどうやったら元に戻れるのか心配してばかりいた。もちろん、自分の生活の心配もしていたが、まさか自分が心配される立場になろうとは。
─────心配されるって、結構いいものね。
 
 
 
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 翌日、ユリアンはこそこそと自分の元勤務先にやってきた。ジルコーニは既にそこに立っていた。
「で、結論は?」
単刀直入に聞くジルコーニに、ユリアンもまた単刀直入に答えた。
「行きます」
ジルコーニはにんまりと、しかし嫌味のない笑いを作った。
「ただ、どうしても持っていきたいものがいくつかあるので、少し荷物が多くなるかもしれません。あと、家の管理を誰かに頼んで欲しいのですが、いいですか?」
「全っ然オッケー!! じゃあ、ホント急で悪いんだけど、明日出発することに予定が早まっちゃったんだ」
ユリアンはむしろ早いほうがいいと思っていた。長いこと間が空くと、都に移り住もうと考えている自分の決心が揺らぎそうだったから。
「いえ、大丈夫です」
「その返事を待ってたんだよ~! 明日の朝、そこの林の入り口まで迎えにいくから。んじゃあね~!」
足取り軽く立ち去っていくジルコーニを見送り、ユリアンは家へと戻っていった。店が混雑する時間だったためか、幸い誰かに見つかることは無かった。
─────改めて、なんか軽い感じの人よねえ。
一昨日の林の道を、早足で歩く。妙な気配はもうしなかった。
 そのころゼタは自分が元に戻る時のシチュエーションを反復してみていた。一度目はユリアンが倒れたとき。二度目はユリアンが襲われた時。
─────おいおい、俺ってもしかして…
 ゼタは自分の気持ちに気づき始めた。