怪獣と赤髪の少女 23

「ユーリア-ン」
 ジルコーニがあの陽気な声でユリアンを呼んでいる。ユリアンは古ぼけた父のずた袋を荷馬車に乗せ終わっていた。ユリアンが慌てて駆けていくと、そこにはあの金髪の青年が立っている。
「久しぶり、かな。いや、国王として会うのは初めてだから、初めまして、だね。ユリアンちゃん」
国王はユリアンが考えていたのよりもずっと気さくな感じに挨拶をした。
「いいいいい、いえ!おお、おひさしぶりですう!」
ユリアンのあまりの緊張振りに、ケイトクとジルコーニは笑い出した。
「いいよいいよ、そんな堅くならずに。ね? じゃあ悪いんだけど、ジルコーニの馬に乗ってくれるかな。いきなり僕と乗るといろいろ問題が出てくるし、何より僕よりもあいつのほうが人を乗せるのは得意だからね。ああ、そうそう。ユリアンちゃんの家のほうは、領主さんに頼んでおいたから。安心していいよ。」
「っはは、はいい!」
相変わらずガチガチのユリアンであったが、言われるがままに、ジルコーニの馬に乗せてもらう。こんなところから既にユリアンにとっては未知の世界、初めてのことだった。ただ、国王の”いきなり”という言葉が少しだけ引っかかってはいたが。
「はっ!」
前に続いて、ジルコーニとユリアンの乗った馬が走り出す。
─────ほえー、馬ってこんな早いのおー?
目まぐるしく変わる景色に、ユリアンは夢中になった。ジルコーニがなにかしゃべっているが、ユリアンの耳には入っていなかった。
 そこに、国王が並ぶ。
「どおー? 初めての乗馬は」
「サイコーですー!」
ユリアンのその言葉から、緊張のほぐれを感じ取って、ケイトクは『よかった』と呟いた。
 ユリアンの耳にようやくジルコーニの声が届き始めた。
「で、服なんかはみんなこっちで用意するから。安心してね」
「ええっ! 良いんですか?」
「なにせ国王の特別なお客だからねえ~」
国王の”いきなり”発言には違和感を感じたユリアンも、この”特別な”には、むしろ優越感を覚えた。
─────都はどんなふうなのかなあ……
 これからずっと住むことになるかもしれない、いや、住むことになるだろう都。ほんの少し未知への恐怖が入り混じった期待と喜びが、ユリアンに沸き起こった。これまであの家とあの町しか知らなかったユリアンにとって、都は父の話の中でだけ登場する別の世界だった。その別の世界の住人が、今、ユリアンの後ろから手を回して手綱を取っている。横を走っている。
─────なんかあたしってお姫様待遇じゃん。
 ご満悦のユリアンは、まさか本当にお姫様にされようとしていることには、気が付いていなかった。
一方、ゼタはというと。
─────めちゃくちゃ狭いー! く、空気ぃ~!
ユリアンのずた袋のなかで酸素の補給に躍起になっていた。