「ただいま」
少年は母のおかえりという気持ちを受け止めた。
それと同時に、
「薬、買ってきた」
嘘だった。少年が足を棒にして、森の中からありったけの知識で集めてきたものだった。
テーブルに突っ伏している母は何とか起き上がり、息をつき、か細い声で、
「ありがとう」
少年には、この薬の本当の出どころに母が気づいているのが伝わった。
温かい気持ちだった。
こんな気持ちを受け取れるのはあとどのくらいだろう。
この先にこんな気持ちを受け取ることがあるのだろうか。
コップに水を注ぎ、すり鉢ですりつぶして練る。
母はその薬のにおいを感じ取り、舌の上に広がるだろう苦味を想像していた。
そのままその苦みは、自身に残された時間を想像させているようでもあった。
「大丈夫、絶対良くなる」
少年の言葉で、母の温かくも悲しみに満ち溢れた気持ちが辺りに広がった。
こんな風に、気持ちを受け止めないですむようにする方法が、どこかにあるかもしれない。
早熟にならざるを得なかった少年は、そんなことまでもう気が付いていた。でも、
—————あと少しだけ。