それを何と呼ぶ 下

王「ラ・デストロよ」
ラ・デストロ「はっ」
王「先日はご苦労であった」
ラ・デストロ「はっ」
王「…面を上げよ」
ラ・デストロ「ありがたく」
王「どうであったか」
ラ・デストロ「…どう、とは?」
王「王宮魔法使いとして、先代は」
ラ・デストロ「こん…このような場を設けていただいておいて何ですが、抑えられたのはだただたラッキーでした。
       あと、処刑の状況が私の得意分野に近か磔にされった、そこですね。
       まともに一対一だったら手に負えなかった…です」
王「フ…謙遜せずともよい。
  そちは事を成した。
  音に聞く『緑の魔女』の通りであったぞ」
ラ・デストロ「…は、はぁ…なら、まあ…」
王「あれでは『緑の魔女』の実力を示すに足りぬと申すか?」
ラ・デストロ「え? あーっと…いやむしろいっぱいいっぱいがんばりましたーってことなんで、むしろ限界点示せちゃってる感じなんだ…ですけど、うー」
王「そのようにそちが申す理由はなんだ?」
ラ・デストロ「…えーっと…」
王「早う申せ」
ラ・デストロ「…あ、はい。
       先代、魔力はそんなになんですけど…体中に魔方陣で入れ墨入れてましたよね」
王「いつ見たんだ」
ラ・デストロ「一瞬反撃直前に炎が消えかけた時に。
       服は全部燃えた後だったから。
       その時、魔力封じの護符が一部体の中に吸われてたんですよね。
       あのときはそこまで判断しきれなかったんだけど、アレ、もしかしたら古い禁種の術かもしれないと」
王「禁種…とは」
ラ・デストロ「私も噂でしか聞いたことないんですけどね。
       魔界の門を開く術だった可能性が」
ラ・デストロの左右に一列に並ぶ国の重鎮達がざわめいた。
ラ・デストロ「度重なる拷問で偶々いい感じに傷が入って中途半端な図になってたんでしょうね。
       だからあのときの反撃もあの程度で済んだ。
       どこでどーやってそんなもん調べだしたのかわかんないけど…。
       あ、王宮の図書館か!
       立場上見たい放題だったろうし、それだわ。今原本どこだろ。
       まー、なんにせよ、あの状況でアレやろうとするあたりマジ頭おかしいっていうか…。
       その手のって基本、要☆生贄! そんでもってその生贄ってオレ&周りにいる奴みんな! だし。
       もう完全に逃げる気ないよねーってゆーところも振り切ってるっていうか、ありえない。
       あ゛ー…むしろアレやりたくて捕まったんじゃないかって気がしてきた。
       牢で会った段階でなーんかキナ臭い人だなぁとは思ったから仕込みまくりしといてよかったわ。
       護符も久し振りに全力投球したし。
       この私が魔力量半端ない&実力も半端ないうえに突発で魔法出すの大得意分野だったらなんとかなったようなもんよ。
       並の魔法使いじゃ速攻アウトだって。
       てかあんなんずっと飼ってたって陛下まじやば…」
重鎮たちのざわめきが消えた。
ラ・デストロ「…あっ…ヤッバィ……」
王を窺う目線のラ・デストロ。
王「元帥よ」
元帥「はっ」
王「その類の奴の手記などは見つかったか?」
元帥「いえ」
王「弟子のほうはどうだ。
  奴自身が手記を残していなくとも口伝で伝えられた弟子の手元にあるかもしれん」
元帥「…ぎ、御意に」
ラ・デストロ「あ、あの~」
王「ラ・デストロよ」
ラ・デストロ「はっ…はい!」
王「有益な情報であった。
  弟子への追手の進言も含めてな」
ラ・デストロ「ここ、光栄にゴザイマス」
王「ことにラ・デストロよ」
ラ・デストロ「はい」
王「お前には親しくしている人間はいるか」
ラ・デストロ「いえ。
       私、自出がアレでして。
       今迄ずっと縁があるというのはないですね。
       友達っていうもの別に…」
王「そうか。
  では、もう一つ問いを出そう。
  王宮魔法使いの仕事には闇の部分がある。
  その部分を受け入れることができるか」
ラ・デストロ「えー…陛下からその質問出されたらその時点で回答一択じゃん。
       てかこの処刑立ち会いも既に闇の部分の一つでしょーよ」
 ラ・デストロがこの場でそんな言葉を実際に口から吐き出していることに、重鎮達は又もざわ付いた。
王「そうだ。
  一択の答えを出せ」
ラ・デストロ「…そんなんわかりません!」
 ざわめきは一層大きくなり…
元帥「静まれぃ!!」
 静まり返った。
王「…ほう。
  では、我が国や朕を裏切る、それも有り得ると」
ラ・デストロ「…わかりません。先のことですから。
        でも、一つ言えることがあります」
王「申してみよ」
ラ・デストロ「私は金主の味方です」
王「ほう。
  金主、とは?」
ラ・デストロ「言葉のままです。
       私は貧しい生活を長くし、金がないとは首がないと同じということが身に沁て分かっております。
       ですから私は、私のこの実力に対し、一番多く金目の物を私にくださる、その方のためにならなんだって働きますよ。
       地位と名誉があればなおよし」
重鎮達「なんと無礼な…」
重鎮達「さきほどから言葉遣いもさることながら、あの髪といい何といい見目も…」
重鎮達「かような不届き者が…」
王「はははははははははははははははははははははははははははははは!!!」
元帥が声を発するよりも早く、王の声で重鎮達は口を噤んだ。
王「此度の報奨、予定の倍出そう」
ラ・デストロ「ありがたき幸せにございますぅ~」
王「魔法使いの自出など皆怪しいものだ。
  特に魔力が強いほど遠い祖先や近親に魔族がいたりする。
  お前のその緑色の髪のように特異な見目も珍しくない。
  先祖返りのように魔族の能力を継ぐ者すらいるというし」
ラ・デストロ「流石によくご存知ですね」
王「“あんなの”を飼っていたからな」
ラ・デストロ「さ、先程は失礼しました…。
       あ、その前の質問ですけど…今縁のある者はおりませんが、古い知人なら何人か」
王「…古い…知人?」
ラ・デストロ「いるって言っていいのか何なんですけどね。
       具体的には最初の孤児院にいた者達で、文脈は違えど皆似たような時期に孤児院を出ましたが、その後は全く。
       仲がいいという訳ではなくて、その…幼いころから暫くを知っていて、腐れ縁というほど縁もなくて。
       でも、わかる…いえ、知ってるんです。
       コイツはこういうヤツだって。
       そして多分向こうも私を知っている。
       同じものを見て来たといいますか…。
       同じ物を見て、私はこう考え、コイツはこう考えるというのを知ってきた。
       幼い頃から、人間の根っこはそう大きく変わらないといいますし、多分、今会っても同じでしょう。
       今の私が金・かね・カネと陛下に擦り寄るのを見たら、私ならそうするだろうと思いつつ、私に軽蔑の眼差しを向けるんだろうなぁと」
王「…それはお前をいずこへか誘う力になるか」
ラ・デストロ「いいえ全く。
       友ではありません。
       親しくないのです。
       ですが知っています。
       それだけ、ですね」
王「その…古い知人、とやらは今はどうしているのだ」
ラ・デストロ「さあ。
       どうしているんでしょうね。
       孤児の状況はまあ皆知っての通りでしょうし…誰かしら野垂れ死んでいても不思議じゃない。
       とくにさっき話したのは人好きのしない性格でしたから」
王「名は」
ラ・デストロ「うーん…ちょっと……何せ昔ですし。
       陛下はなぜ私にそのようなご質問を?」
王「なぜそれを朕に問う」
ラ・デストロ「陛下にもそのような方がいらっしゃって比較しているのかと」
王「そのようなとは?」
ラ・デストロ「それなりに長くお互いに同じものを見て、お互いを知っている、古い知人が」
王「…古い知人、な」
ラ・デストロ「あの?」
王「…」
ラ・デストロ「あの、陛下?」
王「いや……今はもういない」
謁見の間に静けさが広がった。
重鎮達、兵士達、ラ・デストロに見つめられている今。
しかしこの静けさは、ドアの向こうに奴が消えて行った後の、あの静けさの続きだった。