新説 六界探訪譚 12.第五界ー2

コウダは多少途方に暮れてる模様。
さっきの俺と同じように辺りを見回してはいるものの、動き出す気配がない。
「聞いていいか?」
どうしていいのか分からず足元の砂を足でシャカシャカ混ぜてたんだけどそれはもうやめて。
なんなのコウダ。
「弐藤さん、宇宙とか、科学とかそういうの好きなのか?」
「さあ」
またちょっと考えているようだ。
「本屋で買ってた雑誌、なんだか知ってるか?」
「さあ」
科学雑誌だったかも、ってこと?
「ちらっと表紙だけは見えたけど…」
「タイトルは?」
間髪容れずだ。
あのとき見たタイトルか、タイトルの一部と思われるデカイ文字を思いだす。
「全部かわかんないけど、『ニュー』って」
コウダがすごい勢いでこちらを向いた。
「カタカナだったか?」
コウダの目が怖い。
瞬きしてこの砂漠地帯でドライアイ対策する気は全くないんだろうか。
俺がたじろんでると、コウダは俺の両肩を掴んだ。
「どうだったんだ!? 『ニュー』はカタカナか? アルファベットか!?」
あまりの勢いに多少口がぱくぱくと音無で動く。
「え、あ…」
いつもなら『悪い』とかってそろそろ冷静になってるコウダが、今にも俺の体を前後に揺さぶり出しそうだ。
そんな重要なこと?
…多分そうなんだろう。
「あ、るファベット…だった」
コウダの多少表情が緩んだ様に見える。
「エヌ・イー・ダブリューで、New、か?」
「うん…どしたの?」
「いいから。オレンジの表紙に、白抜きっぽい字で合ってるか?」
「そーだよ」
「その文字がタイトルの一部の可能性ありそうだったか?」
「うん。
鞄の口から斜めになってたから。
雑誌の上の端、三角形にしか見えてなかった」
ここまで話すと、コウダの口が横に伸びて開き。
やれやれといった体で盛大に息を吐き出して笑顔になった。
「じゃ、多分大丈夫。歩いて、取り敢えず真っ直ぐ直進で」
軽い足取りでてくてく進み出したコウダ。
「紐は?」
ピタリと足を止めた。
「忘れてた」
慌てて鞄から紐を出して縛り始める。
おいおい。
あんなピリピリしてたんじゃん。気ぃ付けてよ。
「カタカナの『ニュー』とアルファベットの『Newなんとか』でなんか違うの?」
「大違いだ。
かたやオカルト雑誌、かたや科学雑誌だからな」
「タイトルだけだとわかんなくね?
地名と一緒で、『あっち』と『こっち』で名前が違ったら」
『あっち』では『ニュー』と『Newなんとか』でも、『こっち』では逆だったりしたら大誤算じゃないか。
訝しむ俺に対し、コウダは自信に満ちた声音。
「雑誌は『中』産物のコレクターがいる。
『あっち』と『こっち』の対応表があって、覚えてるから間違いない」
なるほど。
でもプラスチック状に硬化して開けないはずだから、表裏と…ページ開いて持ってきたとして見開き1ページまでしか鑑賞できないよね。
そんなんでも集める物好きいるんだ…。
マニア魂、ドン引くわ。
ま、俺も大概だけど。
壊れた基盤拾って遊ぶついでにと、どう考えてももう使えそうにないトランジスタやらのパーツをわざわざ基盤から半田ゴテで外してそれだけお菓子の空箱になんとなく集めてるところは棚に上げた。
セルフツッコミする間にも、靴の中に容赦なく砂が入り込んでいく。
ジャリジャリが靴の中で汗と混じって靴下に絡み着く感触。
気持ち悪い。
砂に関しては『中』から出たあと暫くすると消えるから、靴洗わなくていいのは助かるんだけど。
砂に気持ち悪さを感じるたびに、一歩一歩着実に
淡々と進むものの、そもそもここがどういう設定の場所なのか分からんっつー問題は解決の糸口すらつかめそうにない。
なにせ景色がまっっっっったく変わらない。
浮ぶあの地球は近付く由もなく。
あ、そもそもさ。
「あれって地球なのかな?」
そっくりの別の星って可能性もあるんじゃないか?
「…はっきりと断定はできんが」
コウダ自身、地球に見た目が似た全く別の星である可能性を全否定できないことが心底辛そうだ。
「判断、難しいの?」
「だいぶな。
そもそも宇宙ってキーワードは時代劇と同じく危険度が高いとされていて、普段は確実に避ける。
分かっていない事が多いせいで、世の中の宇宙関連の情報は学問からオカルト・エンタメ路線まで相当の振れ幅がある。
一般常識外の範囲について妄想の余地が多すぎなんだ。
一部のSF系作品と一般常識レベルの知識はあるが、濃いマニア向けエンタメと学術路線は頭がついていかなくて、情報収集できなかった」
まあ、うん、そう、だよね…。俺も無理だわそれ。
だって『宇宙』って単語に関連してそうなものって?
星、とか? 天体観測…ああ、もうそれは科学でひとまとめかな。SF? エイリアン? オカルト、未知の物質、もしかしたら宗教とかスピリチュアルとかも。
うわぁ。地雷度合い高くね? このキーワード群。
今にしたって、万が一弐藤さんが宇宙人の存在を信じてたりしたら、宇宙人に出くわして光線銃で撃ち抜かれる事だって全然有り得るんじゃないだろうか。
いやだ。俺は千本桜的に散りたくない。
例の武器ーーフェンシングの競技で正式採用されたっていうーーを振り回す騎士が助けに来てくれるところまで妄想済みだといいんだけど。
まてよ、自然現象もアリなんじゃねぇか?
突然崖ができたり、地面がすり鉢状にへこんでって…蟻地獄的な?
いや、落ち着け。
まずその前にもっと基本的なとこから。
「もし、あれが地球だとすると、ココって月かどっかの惑星ってことかな」
また『さあ?』って言われるかと思いきや、
「予想が当たってれば月。それか金星か火星。
悪くても、遠く離れた地球と月に良く似た関係の星ってことじゃないかと思う」
ほんとかよ。