俺は王子の婚約者にはなれなかったが、王子の親友にはなった。
俺は家を継ぐ予定ではなかった。次男だったから。だが、歳の離れた兄が死に、俺が継ぐことになった。
お前のことは、友達だと思おうとした。思春期前後は苦痛に満ちていたよ。お前は完全に無警戒だし、俺は俺で男だからな。いつ押し倒してもおかしくない状態だった。
女をよく知れば興味もなくなると思って、いろんな女に手を出した。だが、やっぱりケイトクにはかなわない。どれもみな同じに見えた。
強攻策に出たこともあった。遊郭に連れて行って男にしてしまえば、もう大丈夫だと思った。だが、お前は男にならなかった。結局だめだった。
そんな折、親父が死んだ。俺は家を継いだ。俺は正直、家のことなどどうでも良かった。途絶えようが何しようがかまわない。俺は、お前と俺を出会わせた”家名”って奴が大嫌いだった。
騎士団に入って、宮廷内での地位を固めた。お前が即位してからは、出来る限りサポートした。
お前が気づいてたかどうかは知らないが、結構俺が根回ししてたんだぜ、いろいろと。
バロッケリエールの愛人は、その一環だ。どこかの掃き溜めから、適当に一人、ウリエルさんに似ているのを連れていった。これで、バロッケリエールに一つ貸しが出来た。
そしたらある日、お前は『この子と結婚する』とか言い出した。俺はこれでようやく友達になれると思った。だが、同時にそんなもの破談になってしまえとも思った。
事実破談になったとき、俺は内心ほっとしていたよ。
そして、相変わらずどっちつかずの状態だったころ、お前が相談してきたんだ。
『僕の体、見えるかい』
お前の女らしい体。俺がどんな気分だったか、分かるか?
どこのどいつだ。こいつを女にしたのは。嫉妬。憎悪。寝たのか? 男と。
『何か思い当たる節はあるのか』
『ない』
こいつは鈍感この上ないから、きっと誰か好きな奴がいるんだ。
『つまり僕が誰かに恋をしていて僕自身それに気づいていない…と』
そうだろう。もしそれが誰だか分かったら、俺はどうしよう。叩き殺すか? そいつを。俺には、そんな資格はない。
俺か? いや。俺はケイトクの親友だ。あの時言っていただろう。ずっと友達だって。
だから、炙り出そうと思った。恋愛沙汰の噂を流せば、お前はなんらかの反応を見せるだろう。それがどんな反応かは分からないが、ケイトクの嘘ぐらい、俺には簡単に見破れてしまう。
そして、あの時。
俺は、お前が少年兵と手合わせしていたという話を聞いた。お前、全然気づいてなかったろう。あの少年兵は、前からお前に気があったってこと。
噂は立てやすかった。バロッケリエールに依頼した。利害も一致したし、これで貸し借りなしだ。オプションとして、『デミアンが発狂した』っていうニュースを、少々誇張してお前に伝えて、終わりだ。
お前とゼタには噂が伝わらないように、緘口令を敷いた。デミアンのおっさん曰く、”いろいろな”手段を用いて。そのほうが、お前に俺が伝えに言ったときのお前の反応が、はっきり出るだろうと思ったから。
予想通りの反応を示してくれたよ。お前は。
『いいじゃないかっ! 好きだったんだから!』
過去形だったが、俺はどっちでも良かった。ただ、お前の嗜好のなかに、俺のような奴は入っていないってことが分かっただけで十分だった。
俺はもうどうにもならないと知った。だから、やはり俺はずっとお前の隣にいるしかないんだ。
でもお前はどんどん国王らしくなっていく。俺の手など借りなくても、やっていけるようになる。
『僕はジルのこと好きだよ』
一瞬よろこんじまった。でもお前の『好き』は”お友達”の『好き』だもんな。
知らないっていうのは、罪深いな。
お前がスカートはいてた日の夜なんて、夢にまで出てきやがった。
王宮の中庭で、俺とお前が座ってて、俺が横を向くと、お前がこっちを見て笑ってて、それで、俺にキスするんだ。
最低だろ?