「うん。知っているよ」
「へ!?」
ロコロ家での返答は、あまりに簡潔で、聞き込みに行った使者は拍子抜けしたという。
「だってさ」
安楽椅子に腰掛けたまま、ロコロ家当主サロメットは言った。
「テレイアがきれーなおねーさん連れてきて、『二人でゆっくりしたいんだけど、どっか場所貸してくれませんか』って言ってきたから、『うん。それじゃあ、いい感じの小屋があるから、そこにしなよ』ってことで」
サロメットは、そうかぁ、あの人はデミアンの愛人だったんだぁ、とニヤニヤしていたということだった。
そしてその使者は、その足で小屋に向かった。
「すいませ~ん」
突然ドアが開き。
「あ゛!?」
いきなり、明るい茶色の髪、黒い瞳の男が、けんか腰で現れた。
「今取り込み中なんだけど」
「あの、ちょっとお伺いしたいことが…」
これがいけなかった。
「だったら何? 今取り込み中だって言っただろ? 全く。僕が誰だか分かってないんじゃない? 帰って。っつーか、帰れ」
「で、ですが…」
使者は、完全に押されてしまった。
「か・え・れ」
バタン
ドアは閉まった。
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──―――で、現在に至るわけだ。
使いの者が追い返されたまさにそのドアの前に立ち、ゼタは途方にくれていた。
またしても国王の護衛を休んで、調査に来ることになった今回。もしも収穫ゼロだったら。
不安が脳裏をよぎる。
──―――ええい。当たって砕けろ!
一歩、ドアに近づいた。
しかし、ゼタのドアノブにかかった手は、そこで一時停止した。なぜならば、中からこのような声が聞こえたからだった。
「あっ…ちょっと…い、いけませんって…」
「ダメ。もう限界」
「や、あ…ぁ…だめ………まだ昼過ぎだしっ…」
「やだ」
──―――おいおい。
ゼタは一時停止した手を迷わず始動させた。
「こんちわ~」
鍵がかかっている。
「今取り込み中」
──―――返事はするのか…
ゼタは呆れた。
「こっちも至急の用事なんですけどぉ」
鍵は開かない。
「後にしろ! こっちも至急の用事だ」
そもそもこういう状況で、ポンと返事をしてしまう時点で、潜伏できているとは言えない。やはり相手は”お坊ちゃん”なのだろう。
「鍵、開けてくれませんか?」
返事がない。
──―――そっちがその気なら、こっちも実力行使すっか。
ゼタはドアを思いっきり蹴り飛ばした。
いい具合に古びていたらしく、ドアの蝶番が外れ、そのまま室内に倒れた。
予想通り、金髪黒目の女性と茶髪黒目の男性が、同時にこちらを”見上げた”。
そしてやはり予想通り、テレイアがオリーブの服を少しずり下ろし、首筋にキスをしながら、太ももをなでていた。
「じゃ、入らせてもらいますね」
後ろ頭をばりかきながら、中に入る。
「なんだよ。いいとこだったのに」
テレイアはオリーブから手を離した。
「はじめまして。王宮騎士団長のゼタ・コーウィッヂと申します」
かなりトゲがある言い方をした。
──―――こいつ、結構嫌いだ。
ゼタは途方にくれた。ドアの前でそうしたのよりも、より深く。