いろいろなことが、どんどんこんがらがってきていたせいで、いや、そのおかげで、ケイトクはここしばらく、自分の体の変化に無頓着だったことに気がついた。
「なあ、ゼタ。そういえば、僕の見た目、最近どう?」
なんだか頓珍漢な質問だった。ケイトクには本当に本当に切実だったのだけれど。
「いえ、特に変わったところはないかと」
なんとなく手にもっていた羽ペンをくるくる回しながら、おどけてそう言った。
つまり、ほぼ変化しきったということだ。もちろん、”完全に”ではない。
──―――このごたごたは、いつ終わるんだろう。
ケイトクは、この事件が片付いたら、ジルコーニに告白しようと思っていた。しかしこの調子では、いつまでたっても告白できないのではないだろうか。
それに、ジルコーニだって妙齢の男なわけで、浮いた話もあるかもしれない。というかあの遊び人のことだから、その気になればいつでもOKの相手だって、一人や二人ではないだろう。
だとしたら、事件の終結を待っていては、手遅れということになる。
ケイトクは、心を固めた。
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「ジル、ちょっと聞きたいんだけど」
ケイトクは仕事部屋に立ち寄ったジルコーニにこう切り出した。
「んあ?」
気の抜けた声。ソファにくつろぐジルコーニは、半分眠っていた。
そして、しばしの沈黙。
──―――おいおい、ケイトク、なにぐずぐずしてるんだ!
ケイトクは自分自身を叱咤した。
「…じ、ジルは、僕のこと、どう思ってる?」
「はあ? なんだ。珍しいこと聞くじゃんか。どうした? なんかあったか?」
「い、いや、そういうんじゃ…」
「ふ~ん…」
ソファから立ち上がったジルコーニは、ケイトクの顔をじろじろと覗き込んだ。
「あ、俺に惚れた?」
爆弾投下。
「なっ!!!」
ケイトクは絶句した。
「そうかそうかぁ。そんなに俺が好きかぁ~。やっぱ、何? 俺って超イケメンってやつだし、そんな俺のこと毎日見てれば、そんなふうに思うようになっても不思議じゃないよなあ。もう、ケイトクってば♪」
ジルコーニが冗談で言っているのは明白だった。ジルコーニはニヤニヤしてドアのほうへ寄っていく。そして、ドアノブに手をかけた。
「じゃ、俺そろそろ帰るわ」
──―――今しかない。
ケイトクは、渾身の力を振り絞った。
「僕はジルのこと好きだよ」
顔が火照る。
──―――ジルは、どんな顔してる?
立ち止まっているジルコーニを見た。
しかし、そこにいるジルコーニは、いつものおどけた表情ではなかった。
絶対零度。まさにその表現がふさわしい。真っ青な瞳が、凍てつくような視線を放っていた。
「…知ってる」
その視線を崩すことなく、ジルコーニは出て行った。
ケイトクは驚いた。しばらくの間は、呆然としていた。ゼタが言葉を発しようと口をあけたのを、無言で静止する。
ケイトクは泣いていた。
──―――振られた…のかな。
ドクン
ケイトクは、自分の体に大きな異変が起きたのに気づく。
──―――そんな…そんな馬鹿な…
涙でぐしょぐしょの顔を拭くこともしなかった。そのままトイレに直行する。
ゼタはケイトクが、勢いよくドアを開け、十秒ほどで、また勢いよくドアを開けるのを見た。
ケイトクはゼタを見据えていた。
「どうしよう」
「な、何…が?」
「女になってる…」