男性化志望者とその友人 プロローグ

 ケイトク・トウジキは、風呂に入ろうと服を脱いでいた。
 ケイトクは国王である。これまでそれなりによく政務をこなしてきた。
 先代のときまで険悪だった隣国との関係も改善できた。(隣国国王が非常に優秀だったため、それほど困難はなかったが)
 国内での内紛も無い。
 一つ問題があるとすれば、表現が微妙になるのだが、ケイトクの体だ。
 ケイトクは両性具有なのだ。この国の王族に時折現れるのだが、ケイトクはまさにそれだった。
 本来ならば童貞喪失または処女喪失と同時に性別が分化するはずなのに、ケイトクは変わらなかった。
 それも、間もなく終結するだろうと思われていた。
 十代のころはまだ残っていた乳房はすっかり消えて男の胸板になっていたし、ケイトク自身、男よりも女のほうが好きだった。男といちゃいちゃするなどということは、考えただけで身の毛もよだつ。好きになった人も、もちろん女だ。
 本人も、周囲の人間も、もはや両性具有の王ではなく、国王ケイトク(男)として扱っていた。
 それなのに。
 その日、ケイトクは風呂場の姿見を見た。
─────?
 確かに、胸がある。
 僅かだが、それは女のものだった。正直に驚くが、それもつかの間。
 ケイトクは楽天的に思い直した。
─────ま、一晩寝れば…
 ケイトクは風呂に入ってそのまま眠った。一抹の不安を残して。
 そして、その不安は的中する。