「結婚生活はどうです?」
「ええ。上手くいってますわ」
あの人は何にも喋らないから、ヤナが話し相手。
あの人は私に興味ないみたいだし、実を言うと他に誰か女がいる可能性まで考えてる。
私も実際あの人のことそこまで好きじゃないし、っていうかぶっちゃけあの人がわかんない。
得体の知れない生き物との結婚生活。ああ。考えてるだけでぐったりしてきた。
でも、上手くいってるってことにしておくわ。政略結婚なんて、そんなものよ。
「カジムのことだから、何も喋らないだろうし、疲れるだろう」
流石。よくわかってらっしゃる。私よりも、あの人のこと、詳しいんじゃないの?
「そうでもないですわよ」
へたくそな嘘。いつからこんなに仮面を被れなくなったのかしら。
「ふふ…。貴方はどうか分からないが、貴方が思ってる以上に、カジムは貴方のことを気に入ってますよ」
どうだかね。
ほら、よく言うじゃない。幸せなら態度で示そうって。
全然態度に表れてないもん。わかんないもん。
「だといいんですけどね」
「よおく見れば分かりますよ。カジムのいいところは」
そうかしら?
確かに、私って割と眠りが浅くって、ちょっとしたことですぐ起きるけど、あの人が部屋に入って来る音で目が覚めたことはないわ。
つまり、静かに静かに入室してるのよね。私を起こさないように。
それに、命令口調になったこともない。悪い意味で亭主関白なことは、何一つしてない。
…それぐらいかしら。
「それに、あれの考えてることも」
全然分からないわ。
「そうなれるように、努力しますわ」
「案外単純なんです。カジム・ファイ・クライングクロウって奴は」
「へぇ…。ところで、私のことばかりお尋ねになってますけど、そちらはどうなんですの? 奥様とは」
ふっと微笑む。その表情は、『美しい』としか言いようがなかった。
「分かるでしょ?」
急に子供っぽくなる。
ああ。やっぱりこの人は、奥さんを愛してるのね。
「今、分かりましたわ」
「カジムは色々と苦労も多いから、感情を抑えるのに慣れてしまってるんですよ。いい奴です。あれは」
苦労? 貴族なのに? それに、感情なんてあるのかしら。
まあ…あるのでしょうね。私には見せないだけで。
「カジムをよろしく。カジムの友人として、お願いします」
「出来る限りは。では、失礼させていただきますわ」
「王宮の中も、ゆっくり回ってくるといい。貴方の国とは、様式もずいぶん違いますから」
「ええ。そうさせていただきます」
「また、いらしてください」
にっこり頷いて、部屋を出る。グレイと頷きあう。
ん? さっきの役人は? あ、いた。立ち話してる。サボタージュはだめよね。
「…カラス元帥の奥さん、めちゃ美人だよな」
「色気ムンムン。近くで見るとほんっとにイイ」
「あんなカラスのどこが好きなんだろーな」
「政略結婚だからしょうがないだろ。じゃなきゃカラスが結婚なんて無理無理。カラスの奴、生まれが生まれだから…」
グレイが眉をひそめた。
へえ、あの役人、言ってくれるじゃないの。ちょっとお仕置きしてやろう。
こっそり忍び寄って、
「カラスって、頭のいい鳥なんですよ。鳩なんかと違って」
飛びのく二人。あ~、いい気味!
「あ、アカエ様。あの…」
「あら? 烏の話をしていたんじゃないんですの?」
「え、あ…っと…は、ぁ」
「鳥の」
冷や汗が流れる二人が、ほっと胸をなでおろすのが分かる。そして、その表情に生気が戻った。
私も悪魔じゃないわ。国王にチクッたりはしない。
でも、あれ、”私の旦那”なんだからね。別にあの人を弁護したわけじゃないんだから。
王宮をぐるっと一巡り。で、グレイとまっすぐ帰宅。
でも、ちょっと気になるわね。
『生まれが生まれだから』ですって。何のことかしら。
クライングクロウ家は、貴族のはず。どういうこと?
夜にでも、グレイに聞いてみよっと。