結婚式から二十日。
家事は完璧。料理は…聞かないで。ホントに。
これだけ経つと、家の中の役割分担もはっきりしてきたみたい。
稼ぎ手はあの人。お金の管理はグレイ。庭の手入れと力仕事・日曜大工はマイケル。同じく庭の手入れと料理がヤナ。
で、屋敷の手入れが私。
この家広いもの。毎日毎日掃除しても、いつのまにか埃が溜まってるの。
でも趣味も出来たわ。掃除しながら発見したインテリアを配置しなおしたり、ちょこっと手を加えたりして、私好みの屋敷に改造するの。
うわ。どんどん専業主婦じみてきてる。いけない。
最近楽器も弾いてないし。前は三日に一度は確実に触ってたのに。マイ・バイオリン。
あ、帰ってきた。
「お帰りなさい」
「ただいま」
ここ数日、この台詞以外の会話バリエーションは、『おはよう』『行ってらっしゃい』『お休み』ぐらいね。
明後日は仕事休みだから、『お帰りなさい』『行ってらっしゃい』もなくなるわけだ。
さみしいな。
ご飯を食べて、お風呂に入って。
いつもとおんなじ。おーんなじ。つまらない日常。
「先に部屋に行ってます」
「分かった」
「おやすみなさい」
「お休み」
おんなじ…いや。ちょっと変えてみよう。部屋に行ったら、久しぶりに一曲弾いてみよう。
近所迷惑なんてないわよね。だってここ、街から少し離れてるし、お隣もないし。
あったあった。マイ・バイオリン。
ギュィー
ああ、いい音。ちょっとテンポの速い曲が好きなのよね。
たまらない。やっぱりこれが足りなかったのよ。これが。
一曲終わり。今度はゆっくりめのやつ。
あ…ちょっと眠くなってきたかも。
「…いい曲だな」
びっくりした。いつの間にベッドサイドに座ったの? そもそも入ってきてたことに全く気づかなかった。
「…聞いてたんですか?」
「聞こえたんだ」
屁理屈っていうのよ、それ。目がさめちゃった。
いいわよ。聞かせてあげる。
ん…緊張するなぁ。でもちょっと嬉しい。
ベッドサイドに座って、演奏会? いえ、違うわ。だって弾いてるのは私だけ。聞いてるのは彼だけ。
さみしくは…
って、ええっ! 寝てる! いつの間に横になったのかしら。
まだ弾き始めてそんなに経ってないのに。
興味、ないんだ。音楽。気合入れてたのに。腰砕け。
ちょっと、あなた。リクエストまがいのことしたくせに、早々にばっくれてんじゃないわよ。
でもたたき起こすのも気の毒。気持ちよく寝てるみたいだし。
あ、そういえば、この人が私よりも先に寝たことなかったわね。
ついでにじっくり寝顔見物してやるわ。
う~ん。実に快眠って感じね。何されても起きませんっていう顔してる。
えい。でこチュー。
起きない。
この先は…やめよ。私も寝よう。
ごそごそ。あったかい~。あったかいベッドって気持ちいい~。
腕発見。いつも抱きつかれる側だから、いいわよね、偶には抱きついても。
お休み、無神経な旦那様。