カラス元帥とその妻 エピローグ

 それからどうなったのかって?
 もうそろそろこの話のパターンつかんでよね。
 別に変化なし、よ。
 退院してからも相変らずカラスさんは仏頂面で、うんとかすんとかしか言わない。
 ああ、そうだ。あえて挙げるとすれば…やっぱやめとく。恥ずかしいし。照れるし。…うん。そうする。
 そうそう。体のほうはなんともなくって、こっちに戻ってきてから一月経過した現在、あの人はお仕事してます。
 私は、というと、ちょっとお忍びで街に出かけてきています。
 すっかり忘れていた弟からの手紙のことを最近思い出し、何時来るつもりなのかを聞いてみる手紙をしばらく前に再度送ってみたのだけれど、なしのつぶてだった。
 なんかあったのかしら。まあ、あいつは大丈夫。側近が見かけによらずしっかりしてるから。
 さて、今日は行き先があるのよね。ええっと…こっちでいいのかな。
 カラスさんは今何やってるのかな。デスクワークかな。
 あ、あったあった。手芸洋品店。
 ここ最近、私が編んだ毛糸小物をヤナにプレゼントしてたの。ヤナは知り合いに、『どこで買ったの?』と聞かれたらしくって、話の流れでその知り合いにおすそわけすることになり、毛糸が足りなくなった、というわけ。
 で、それを口実に変装してお出かけ。グレイを引き連れて。
 あ、この色いいな。そうだ。これで旦那のニットつくろう。もうすぐ誕生日だってグレイに聞いたし。喜んでくれるかな。
 店を出てしばらく歩いて、噴水のある広場に出た。小さな女の子と男の子が、噴水に座っている。
 すぐ傍に私も座った。だってちょっと疲れた。運動不足って恐いわね。
 小さな女の子は、男の子と話していた。
「だめなの」
「なんで? 僕はみーちゃんのことだいすきだもん」
 マセたガキね。
「だめ」
「なんでだよう」
「だって、あたし、かっこいいカラス元帥さまとけっこんするんだもん」
 カジムは私のものよ。あんたなんかにゃやらないわっ。
「そろそろ…」
 グレイが声をかけたから、その言葉は口から出てこなかった。あっぶなー!
 その日はそれで家に帰った。
 
 
 
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 夜、カラスさんがいつも通りベッドに入ってきた。違うのは、私が狸寝入りしてるということだけ。
 最近気付いたことなのだが、必ず彼は私の背中にキスをしてから眠る。 なんの儀式?
 『ま、いいか。なんでも。キスしてくれてるんだし』といつも思うけど、今日はちょっと振り返ってみる。
「あなた」
 カラスさんは少し慌てていた。
「おやすみ」
 クライングクロウ。鳴くカラス。時には涙するかもしれないけれど。
 カジム・ファイ・クライングクロウは、アカエ・クライングクロウと末永く幸せにくらすの。
「おやすみ、アカエ」
 そして私は最近、彼は私を抱くときだけは、好きだと言ってくれるようになったことに気付いた。