怪獣と赤髪の少女 8

「「何かな、今の」」
双子は顔を見合わせた。
「え?なんか聞こえた?」
力いっぱいしらばっくれるユリアン。しかし、
 ゲホッ、ゲホッ
 今度はベットの下からだと、はっきり分かった。
「何かいるの?」
ヒーリがそういうと、ロイはすかさずベッドの下を覗き込んだ。そして、
 ぺたたっ ぺたぺたっ
「ヒーリ、そっちだ!捕まえて!」
「わあ!なんだよ、このみどりいの」
興味津々だ。とうとうゼタはベッドの下から這い出してきた。
─────こりゃだめだな。
そう思ったゼタは、チラッとユリアンの方をみて止まった。そして、二人に取り押さえられた。ユリアンはため息をもらした。
「あーあ、ばれちゃったか。放してあげて」
 ロイとヒーリはバッとユリアンの方に振り返った。
「やっぱり隠してたんじゃないかぁ」
「ユリ姉、これ、何?」
 満面の笑みで聞いてきた好奇心旺盛な二人の子供に、ユリアンは事情を話した。
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「……こんなのがゼタ・ゼルダなわけないじゃないか」
「だって三百年閉じ込められてたっていうのがまずうさんくさいし。それに、なんかこう、海賊っぽいオーラみたいのがないよ」
ヒーリとロイの声に、ぶすっとしたゼタが言った。
「なんだよ、その”海賊っぽいオーラ”って。それになあ、俺だってこうなる前はイケメンでとおってたんだぞ」
ユリアンが思わず吹き出した。
「くッ。あんたがイケメン?説得力なさすぎだよお。……ふふふふッ」
「ねえ、”いけめん”ってなに?」
「おいしいパスタを作る人のこと?」
「そうそう」
ユリアンはゼタを横目で見つつ、ふふっと笑った。
「おまえみたいなガキンチョが同意すんなよ、まったく。大体おまえ、その二人とそんなにめちゃな年の差無いくせして大人ぶりすぎなんだよ」
ロイとヒーリが一瞬固まって、視線をゼタに集中させた。ユリアンの声色は、腹の底から湧き出すような感じだった。
「ゼタ、あたしのこといくつだと思ってンの?」
「はあ?十五、六だろ。あ、もっと下だったか?わりいな、ふけて見ちまって。でも、そいつらは十歳そこそこだろ。そんなに違わねえってとこはあたってんじゃねえか。まあ、その年で一人で暮らしてるんだから、すげえとは思うけどな。でももうちょっと年ってもんを重視すべきだろ」
「……じゃ、じゃあ、ぼくらは今日は帰らしてもらうから。ばいばいユリ姉」
「ええ、またね」
 ロイとヒーリはそそくさと帰っていった。ユリアンの声は上ずっていた。二人が出て行った後、ユリアンはすうっと息を吸い込み、家が揺れそうな声をはりあげた。
「あたしははたちだーーーー!」
ゼタの目が星になってくるくる回っていた。しかし、そこはゼタである。気を取り直して反撃に出た。
「そんなもん、分かるわけねえだろ。顔はどう見たってガキだし、首から下もそんなぺラッとしてて、胸も尻もねえ。そしたら普通は『ああ、こんなもんの年だ』って思うだろうが」
「な、な、な!」
 ゼタのほうが正論である。ユリアンの見た目は今ゼタが形容した通り、かなり幼い。普通は初見で年を見破れないし、羨ましがる人も多いだろう。だが、ユリアンにとってそれは単なるコンプレックスの種でしかない。
「そう………。そういうつもりなら、こっちにだって手があるわ。」
震えながらそう言うと、ユリアンはゼタをつまみあげ、庭先に放り出した。
「一晩そこで頭冷やしなさい」
「ちょっとまてよ!そんな古典的な!ひでえ!小動物虐待!」
 フン、と、鼻で笑って、ユリアンは鍵をかけた。
 翌朝ゼタは中に入れてもらったが、その日から二、三日は、ユリアンの口数が異常に少なかったのは言うまでも無い。