怪獣と赤髪の少女 37

 それからさらに三日が過ぎた。ユリアンの滞在期間は残り七日となっていたが、ユリアンはまだ返事をしていなかった。三日とも街へ出かけたが、都はあまりにも広く、未だにゼタが見つけられていないからだ。
─────もう見つからないかも。
そういうあきらめの気持ちが、ユリアンの中に芽生え始めていた。そんな昼下がり、ユリアンは中庭でぼおっとしていた。どうしても、ゼタに会いたかった。
「ユリアン」
「あ、こくお…っと、ケイトクさん」
 何日か前に、『国王陛下』はよしてくれと言われたのだが、まだくせが抜けないユリアンは、途中まで出かかってしまう。ケイトクは笑っていた。
「また街へいくの?」
「…はい。出来れば」
「ユリアン、何か探しものでもあるの?」
一瞬、ユリアンは言葉を探した。
「いえ。そういうわけでもないんです。ただ、やっぱり街って、活気があって、すごくおもしろいじゃないですか。それに、都ってとっても広いから、まだ見てないところがたくさんありますし。」
言っていることは嘘ではない。街に暮らす庶民の逞しさや優しさというのが、ユリアンにとって心地よいというのは事実だし、まだ少しだけ見ていない地区があった。ただ、それがメインではないというだけこと。
「それは僕も同じだな。やっぱり国っていうのは、ああいう人達が支えているんだからね。僕は生まれた時からこんな暮らしだから、ちょっとあこがれるけど、でもあの人たちの暮らしを守るのが、僕の役割だから。好きなものって、やっぱり守りたいでしょ」
 ユリアンは、この人の国に住んでいて良かったと、心から思った。きっと自分の役割から逃げたいと思ったことだってあったろうが、ケイトクは国の人達のことを愛しているから、逃げ出さなかったのだ。
「ああ、もうこんな時間だ。ちょっと休憩が長引いちゃったよ。ごめんねユリアン。今日は一緒にはいけないんだ。仕事が残っててね。ラナに頼んであるから…。ユリアンの部屋に行くようにいってあるからさ。でも……ゴメン」
「いえ、そんな。全然オッケーですよ。じゃあ、お仕事、がんばってくださいね」
 ケイトクは走っていった。
─────今日で最後にしよう。
 ユリアンは、今日この日を区切りの日にしようと誓った。ゼタを見つけられなかったら、もう諦めてしまおうと。
─────諦めるって、何を?
 自問してみるが、答えは明白だった。ユリアン自身、ケイトクのことは嫌いではない。ただ、ゼタは別格なのだ。そのゼタがいなくなったとしたら、次にくるのはケイトクその人だった。つまり、ユリアンにとってケイトクは第二候補ということである。
─────あたしって、ほとほとやな奴だわ。
 陰鬱な気分になって部屋に戻ると、もうラナが来ていた。
 
 
 
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「これで全部見たかしら」
「そうですね。これで都は完全制覇ですわ」
 都中探しても、ゼタは見つからなかった。ユリアンは自分で今日踏ん切りをつけると決めたのに、まだ浮ついたままだ。迷い、その一点が、ユリアンを支配していた。
─────なんていったらいいんだろう。こんなときゼタは…。
 自分がゼタならどう言ってくれるか考えているのに気づいて、ユリアンはすぐに打ち消した。
「あの、一つ食べたいものがあるんですけど…」
珍しく、ラナがこう申し出てきた。
「なあに?」
「八百屋の向かいのお店の、カリントゥーが…」
 ラナの上目遣いに勝てる人は、この世にいないのではなかろうか。こう考えながら、ユリアンはもちろん承諾した。なにしろユリアン自身、あの店のカリントゥーには感激したからだ。カリントゥーそのものも好物である。
「んじゃ、行きましょ!」
 二人は足取りも軽くあの店へと向かった。向かいの八百屋に誰がいるかも知らずに。