怪獣と赤髪の少女 11

「あった」
 感嘆符をつけたため息をもらしながら、ゼタは部屋の角の小さな鍵穴を見つめた。後ろからユリアンも覗き込んでいる。
 昨日床の拭き掃除をしたときには手が回らなかったのだが、改めて隅々まで掃除してみたら、ホコリに埋もれた隠し鍵穴が見つかったのだ。二ヶ月間あれだけ探したのに見つからなかったものが、あまりにあっさり見つかってしまい、ゼタもユリアンも少し拍子抜けしてしまった。
「雹は降らなかったけど、掃除した甲斐はあったみたいね」
これからもお掃除よろしく、と、言わんばかりの笑みを見せるユリアンをゼタはせかす。
「早くしろよな」
「……こっちはわざわざ痛い思いするんだから、もっと敬意を払ってよね」
口を尖らせるユリアン。そう言いながらも、しぶしぶ指にナイフをあてて傷を作った。鍵穴に血を滴らせると、例によってカチリと音がした。
 鍵が開くや否や、ゼタは蓋をあけて、中味を確認した。封筒だ。
「何かしら」
ユリアンがゼタの頭上へと封筒を持ち上げる。口の部分には蝋で封がしてある。ゼタは、俺にも見えるようにしてくれ、と、精一杯上を見上げて言った。蝋には文字が入った紋章のようなものが押し出されていた。
「……G・コーウィッヂ」
 確かにそう書かれている。なぜ自分の苗字が書いてあるのか皆目検討もつかないが、とりあえずユリアンは封を切って、中の手紙を床に開いた。向かいにいるゼタは、この人物に検討がついているようだ。複雑な表情で、古ぼけた手紙を見た。手紙は二枚あった。
  
『ゼタさんへ
 これを読んでいるということは、僕がこれを書いてから三百年経っていて、僕の子孫に会ったということでしょう。いちおう僕の子孫だと分かるように、苗字にジョットのGを入れておきましたが、すぐに見つかりましたか? 封印したこと、姿を変えたこと、本当にごめんなさい。
 姿を変えた理由は、魔法の力が足りなくて、人間の大きさのままでは三百年も維持できなかったからです。それと、そういう変わった姿にしたのは、殺される確率をより少なくするため、これに尽きます。
 では、本題に入りましょう。元の姿に戻るのは簡単です。ゼタさんが強く願えば、今すぐにでも人間になれるようになっています。ただ、最初二回はまたすぐ怪獣に戻ります。三度目に人間になった時に、本当に魔法が解けるはずです。言いにくいのですが、ベータが少し術に失敗しましてね。怒らないでくださいね。あなたに封印をかけるのに疲れきってましたから。
 この小屋にはこの手紙とあなたの剣が隠してあります。開け方はもうお分かりでしょう。
 ベータは隣国で孤児院を開くつもりとのことです。チリカはどこかで雇ってもらおうかと言っています。僕はこの町の領主になって、ここを代々見張る役をします。僕ら三人は、もう会うことはないでしょう。あなたのことがばれるといけないから。
 ゼタさんが出会った僕の子孫がどんな人物かは分りませんが、後はもうゼタさん次第です。それでは、失礼します。

    ジョット・コーウィッヂ 』
 
『三百年後の僕の子孫へ

 いきなり訳の分らない物を見つけて戸惑ったことと思います。ゼタさんのことだから、多分なんにも説明していないと思うので、僕から話しましょう。
 その人は三百年前の海賊ゼタ・ゼルダという人です。僕ジョットと、魔法使いのベータ、料理人のチリカは、その人の仲間、つまり海賊です。ゼタさんはあるとき呪いをかけられてしまい、その呪いは二百五十年くらい経たないと解けないというものでした。そこで、ベータの魔力でゼタさんを三百年眠りっぱなしにして、さらに老化も止めておけば、目覚めた時には呪いは解けてくれる、そう考えたのです。
 封印した後は、ゼタさんの偽の生首を作って、売り飛ばしました。ゼタさんは指名手配されてましたから。こうして、ゼタ・ゼルダという海賊は”死んだ”のです。僕ら三人の名前は割れてなかったので、以後連絡をとらないようにしました。あなたの時代にゼタさんの話が伝わっていても、恐らく僕らのことはあまり出てこないかと思いますが、そういうことです。
 子孫のあなたには申し訳ないのですが、ゼタさんが人間に戻るまで、面倒をみてくれないでしょうか。ゼタさんが安全なように計らってくれれば、それで結構です。そんな感じのひとですが、悪い人じゃないんです。どうか、僕のわがままを聞いてください。

     ジョット・コーウィッヂ 』