「おつかれさま」 震える手で何とかジーの瞼を閉じ、ハンカチを顔にかける。「ユンさん」「連絡ですね。デューイさんが出勤したら…」「いや…うん、そうだね」「葬儀は…」 前々から話していた通り、かつ、今しがた聞いた通りに答えた…続きを読む
長編
領主館へようこそ 86
—————『俺のことなんかな、お前、なんもわかっちゃいねえよ』 ジョットはいきなりのことに呆然とした。—————『他人だからな。俺もお前のことわかっちゃいない。そういうもんだ。永遠にわからない。だからわかりたくなる。この…続きを読む
領主館へようこそ 85
「おはよう。 いいよ、僕が勝手に早く目が覚めただけだから。 メイちゃんの様子見に行くとこ。 いつもの時間でいいからね」「ありがとうございます」 勝手に早く目が覚めるのは、勝手に夜眠れないのと同じ。 違うのは今までは部屋に…続きを読む
領主館へようこそ 84
それからというもの、ジーの部屋に様子見——見舞いとは絶対に言いたくなかった——に行くとき、色々な昔話をした。 『庭』で初めて会ったときのこと。 ジーの声が実験の過程で出なくなったこと。 逃げてからのこと。 それからお互…続きを読む
領主館へようこそ 83
ベータがやってきて、小屋に直行し、そして。「多少の応急処置は手紙の返信に書いたとおりできると思う。 痛み止め程度だがな」「…そう…」「すまない」「いや、ほんと、ベータが謝るこっちゃないよ」 本当にベータはよく謝るように…続きを読む
領主館へようこそ 82
—————『今どこ?』 ジーからの返信がない。—————『ジー?』 視界にユンが入ったので、足早にその背中に近寄っていく。「ジー、どこにいる?」「さっき戻ってきて、あっちのほうに」「わかった!」 駆けて行った先はジーの作…続きを読む
領主館へようこそ 81
夜のダイニングは久しぶりだった。 一人で飲む紅茶はおいしくもまずくもない。 が、今日はなんとなくティーカップをもう一人分持ってきていた。 そしてジョットの書斎に置いてあった小箱も。 本人に告げたわけでもないのに。———…続きを読む
領主館へようこそ 80
そして予想通り翌朝。「ユンさん、なんかあった?」 朝食時に耳うちすると、ユンは高速でチリカとキシアスを交互に見ながらあっという間にいたたまれない顔になった。 間違いない。 ジョットが予想した通り、チリカがキシアスをおい…続きを読む
領主館へようこそ 79
「こちらこそもうしわけありませんでした!」 ユンが慌てて口にし、ジョットの感情が激しく揺れ動きだすその直前に、 ゴンッ「イタぁッ!」 そして足首に刺さる細い痛み。「イタタタっ、しょうがないんだもうちょっとの間は! ユンさ…続きを読む
領主館へようこそ 78
「今日で折り返しです。 チリカの料理は、明日の昼・夜は思い切り軽めで」 ジーとチリカと、そしてユン。 ユンを注視しすぎないようにするジョット。 このミッションに全精力を傾けているジョット。 いつもなら何か突っ込んできたっ…続きを読む