「この辺、出るらしいぞ」
茂みの中を抜けてすぐの見晴らしのいい崖、つまり高台。
その岩場から双眼鏡で近場から遠くの町々をも眺めながら男はもう一人に告げた。
「当たり前だろ。敵兵が出ないんならなんで俺たち見張りしないといけないんだよ」
双眼鏡を構えたままほっと一息ついた先がたの男は、それを下ろしてもう一人に向き直った。
「じゃなくて、噂の」
「噂?」
「知らねぇのかよ。例の『小さな巨人』」
もう一人は小さくああ、と漏らし、合点がいったのもつかの間、男を馬鹿にしたような顔になった。
「てかさ、あんな噂信じてんのかよ」
「信じてまではないけど、っていうか…」
「あー、はいはい、足元確認な!」
もう一人は足元を適当に見まわした。
「凹みがあるんだろ? ちっちゃい、靴の形の。
岩場にそんなん残んねぇはずなのに巨人でも出たのかぁ~っ!
…たまたまそんな形の凹みが元からあっただけなんじゃね?」
男も当然もう一人と同じように見まわした。
「特に…なし。大丈夫だ…ろ? おい」
もう一人は俯いて固まっている。
「どうした?」
「あった」
静まり返る。
「は?」
「これ…っああっ! マジかよ!
お前、こっちこいよ。すげぇそれっぽいわ」
もう一人は男のほうを向いた。いや、男がついさっきまで立っていたその場所を。
そのもう一人がすぐさまその手に持ったもの、敵襲を知らせる狼煙やほら貝を使う機会はついぞ来なかった。